コラム
1on1で”本音”が出てきた。——その先、どうしていますか?

株式会社マイシェルパ 営業の村田です。今回は、カウンセラーの吉田さんに「1on1のその先」で起きている問題について聞いてみました。1on1をちゃんとやっている会社ほど直面する、意外な壁の話です。

吉田 哲久(カウンセラー)
株式会社マイシェルパ / 公認心理師・臨床心理士
精神科クリニックに10年勤務し、年間1,000件を超えるカウンセリングを担当。現在は株式会社マイシェルパ カウンセリング部に所属し、法人担当者に向けたメンタルヘルス施策の助言や研修を行うほか、個人向けのカウンセリングや心理検査も実施している。
1on1で本音が出てきた。その先で詰まっている
ある会社の人事の方から、こんな相談をいただいたことがあります。
「1on1はちゃんとやっているんです。社員の声を聞こうとしている。でも最近、聞いた”その先”で詰まっていて」と。
その会社は訪問系のスタッフを抱えていて、上長が定期的に面談をしているんですが、回を重ねるうちに業務の話だけじゃ終わらなくなってきたそうなんです。子育てのこと、家族の介護のこと、気持ちの落ち込み。スタッフが信頼して話してくれるのはいいことなんですが、聞く側の時間がどんどん長くなっていて。
人事の方が言っていたのは、「少し心配な社員の話を聞くことはできる。でも、それがメンタルの疾患レベルなのか、もう少し様子を見ていいのか、自分たちには判断できないんです」ということでした。
この感覚、すごく正直で大事なんですよ。
「聞けてしまう人」が抱えているもの
実は、メンタルヘルスの領域では「聞く」と「アセスメントする」——つまり状態を見立てることは、まったく別のスキルなんです。話を聞いて共感すること自体はとても意味がある。でも、「この人は今どのくらい消耗しているか」「医療につなぐべきタイミングか」を判断するには、専門的なトレーニングが要る。それを、採用も労務も研修も兼務している人事の方が一人で担っているケースがとても多い。
その会社もまさにそうでした。120名くらいの規模で、人事は2名。ストレスチェックはやっている。高ストレス者の存在も把握している。でも、本人が「面談は不要です」と答えたら、そこで止まってしまう。で、結局気づいたときには休職になっている。
人事の方が、あるとき少し疲れた声でこう言ったんです。「深く介入もできないし、結局、話を聞くだけになるんですよね」って。
……この「話を聞くだけになる」という言葉が、まさに構造的な問題を表していると思いました。
本来、話を聞くこと自体はケアの第一歩なんです。でも、その先に専門的なアセスメントや心理的なサポートの動線がないと、「聞いた人」がそのまま重さを抱え続けることになる。
対人援助の領域では「ケアする側が最も消耗している」というのは、非常によく知られたパターンです。感情労働——相手の感情に寄り添いながら自分の感情をコントロールする働き方を日常的にしていると、自覚しないまま疲弊していく。人事の方がまさにその立場にいるんですが、「自分の仕事だから」と思って頑張り続けてしまうんですよね。しかも人事の方って、「自分がしんどい」とはなかなか言わない。
この会社の人事の方も、面談の中で「専門家じゃないので、どこまで踏み込んでいいかわからない」とおっしゃっていたんですけど、その言葉が出てくる時点で、たぶんもうかなり抱えているんです。
ただ、誤解してほしくないのは、1on1の制度を入れたこと自体はすごくいい判断だということです。社内で声を拾おうとしている。それは意味のあることです。
でも、1on1は上司と部下の関係の中で行われるので「上司には言えないこと」は構造的に出てこない。上司に相談すると評価に影響するかもしれない、異動を希望しているけど直属の上司には言えない——それは上司の力量の問題じゃなくて、関係性の構造上そうなるんです。
今の仕組みに、もう一つの受け皿を足す
だから、今ある仕組みに「もう一つ受け皿を足す」という考え方が大事になってくる。社内の1on1で日常的なコミュニケーションを取りながら、もう少し深い悩みや専門的な見立てが必要なケースは外で受ける。そうすると、上長も人事も「全部を自分で抱えなくていい」となるし、社員も「ここでは言えないけど、あっちでは話せる」という選択肢を持てる。
制度として何かを大きく変える必要はないと思っています。今ある仕組みに、もう一つの経路を足すだけでも、人事の方の負担感はだいぶ変わってくると思います。
吉田さん、ありがとうございました。
「聞けてしまう人が追い詰められている」という話は、1on1に力を入れている会社ほど、思い当たることがあるんじゃないかと思いました。もし同じような状況にある方がいれば、何かのきっかけになれば幸いです。