コラム
顧客対応ストレスを放置しないために~感情労働時代のメンタルケアと備え~

顧客対応の現場は、繁忙やシフト勤務、対人対応、クレーム対応が重なり、ストレスが蓄積しやすい環境です。放置すれば、離職・休職や現場の疲弊、サービス品質の低下にもつながりかねません。
本記事では、株式会社マイシェルパ開催セミナー「顧客対応ストレスを放置しないために―感情労働・カスハラ時代のメンタルケアと備え」をレポートします。顧客対応ストレスの正体である感情労働を手がかりに、企業が整えるべき備えを整理します。
目次
ー スピーカー:吉田 哲久(株式会社マイシェルパ 臨床心理士、公認心理師)
改めまして、まず自己紹介を簡単にさせていただきます。私、臨床心理士・公認心理師でありまして、これまで精神科・心療内科のクリニックで10年以上カウンセリングをやっておりました。本日はそういった経験を活かしながら、お話をさせていただきたいと思います。
日本の産業を取り巻く現状
まず、日本の産業を取り巻く現状について見ていきたいと思います。
今、日本ではサービス産業化が著しくなっておりまして、サービス業の割合は7割を超えています。それに伴い、「顧客中心主義」が台頭しています。サービス業が多くなってきたので、内容だけではなく「質の高さ」も重要になってきたんですね。「ユーザーエクスペリエンス(UX)」なんて言葉に象徴されるように、顧客を重視する流れが強まっています。
そして「SNSの普及」です。皆様もニュースで「炎上」という言葉を聞いたことがあると思います。 一方で良い効果もありまして、SNSでバズったことによって、全然人気がなかったお店が爆発的に売れるようになることもあります。 このように、一人の顧客がサービスの評価を全世界に向けて発信できるようになり、今まで以上に「顧客」を重視せざるを得ないのが今の日本の現状です。
「約7人に1人」がカスハラを経験
サービス産業が盛り上がってきたことにより、新たな問題も出てきています。「カスタマーハラスメント(カスハラ)」です。
これは顧客から就業者に対して行われる著しい迷惑行為のことです。今まで「クレーム」と呼ばれていたものから分離した形ですね。 クレームというのは相手に正当性があるものなので、企業としてしっかり対応しなくてはいけません。一方、カスハラは理不尽な要求など、従来通りに対応すべきでないものを指します。
令和2年度の厚労省の調査によりますと、過去3年間にカスハラを受けた従業員は約15%、つまり「約7人に1人」が経験しているというデータが出ています。 さらに踏み込んだデータもありまして、カスハラを繰り返し受けた従業員の21%が眠れなくなり、9%が通院・服薬をしている。つまり、約1割の人がカスハラを受けると、病院に行ったり仕事ができない状態になるかもしれないということです。

こうしたストレスや、繁忙期の忙しさ、過密シフト、ノルマなどが長期化すると、現場の疲弊や離職につながってしまいます。
なぜサービス業の離職率は高いのか?

ここで日本の産業別の離職率を見てみますと、サービス業(濃い青色)は全産業平均(緑色)を圧倒的に上回っているんですね。やはりストレスが関係していると言えるでしょう。
複合サービス事業は離職率が低く出ていますが、これは郵便局やJA(農協)など、昔国でやっていたものが民営化したような事業ですので、通常のサービス業とは異なるケースです。
つまり、顧客満足を求めるビジネスモデルの普及によって、顧客対応の重要性は増大しており、それに伴いストレスも増加し、離職率の高さとして表れている側面があると考えられます。
なぜ顧客対応はストレスフルなのか
ストレスの正体は「感情労働」による「認知のズレ」
では、なぜ顧客対応はこれほどストレスが大きいのでしょうか? その鍵となるのが「感情労働」です。
感情労働とは、自分の感情をコントロールして、組織や社会が求める感情を表現する労働のことです。営業職、教員、コールセンター、接客業などが当てはまります。
お客様が怒っていても、本心では「イライラ」していても、実際には笑顔で丁寧に対応しなければなりません。 この「内心」と「実際の言動」のズレを、心理学では「認知的不協和(認知のズレ)」と呼びます。人間はこの矛盾やズレに対して強くストレスを感じる性質があるんですね。

感情労働には、2つの「演技」の特徴があります。
1つ目は「表層演技(Surface Acting)」です。 内心は嫌だと思っていても、表面だけ愛想笑いやお世辞で取り繕うこと。これは内心とのズレが大きいので、常にストレスが大きいです。
2つ目は「深層演技(Deep Acting)」です。 これは「お客様も困っているのかも」と相手の立場を想像し、自分の内心そのものを役割に合うよう調整することです。いわゆる「接客のプロ」はこれをやっています。本心と実際のズレが小さいので、ストレスは小さいです。
「じゃあズレも小さいし良いんじゃないか?」と思うかもしれませんが、演技をしてしまっているので、本人もストレスに気づきにくいんです。そのため、静かに蓄積していきます。
「責任感が強い人」ほど危ない、バーンアウトの恐怖
ストレスが蓄積していくとどうなるか。「バーンアウト(燃え尽き症候群)」です。 仕事への責任感が強い人などは、心身のエネルギーが枯渇して燃え尽きてしまいます。
- 精神的な消耗感: 心が擦り減り、エネルギーが残っていない感覚。
- 脱人格化: 他人への関心が薄れ、お客様や同僚に「どうでもいいや」と冷たく接してしまう。
- 個人的達成感の低下: 「頑張っても意味がない」「自分は役に立っていない」と感じる。
特に「深層演技」をしている人は、自分で気づかない間にストレスが積もりに積もっていきます。その結果、主力選手として働いてくれていた方が、いきなり「もうダメだ」と言って離職・休職してしまうことになるのです。
顧客対応の現場ストレスを放置しない仕組み
「セルフケア」はあくまで応急処置
では、どうすればよいのでしょうか。ストレスケアは大きく2つに分けられます。 「自分で行うセルフケア」と「専門家によるプロフェッショナルなケア」です。
休息や趣味などのセルフケアは、もちろんやった方がいいですが、あくまで「予防」や「応急処置」レベルだと思ってください。例えるなら絆創膏や包帯レベルです。 一方で、プロフェッショナルケア(カウンセリング等)は、骨折した時のギプスや外科手術レベルの深い支援です。
骨折した時に「セルフケアで治します」とはなりませんよね? 病院に行けないと大変です。 それと同じで、企業として専門家のケアを受けられる体制を用意しておくことが非常に重要です。
AIには拾えない「無意識」のサイン
なぜプロによるカウンセリングが必要なのか。 感情労働で感情を押し殺すと、ストレスは「抑圧」されて「無意識」の領域に溜まっていきます。

心理学的な「無意識」とは、自分では意識できない領域のことです。 この無意識のストレスは、言い間違い、書き間違い、話す時の「間」、声のトーンなどに現れます。
ここでAIの話になりますが、AIやチャットボットは「書き間違い」を自動修正してくれますよね。「あ、これは誤字だな」と意図を汲み取って、無かったことにしてくれます。 つまり、AIは「意識的な部分」しか取り扱えません。また、無意識のサインである「間」や「トーン」を拾うこともできません。
抑圧されたストレスは、貧乏ゆすりなどの行動や、血圧の上昇、腰痛といった身体症状として現れることがあります。原因不明とされた腰痛の約8割は心因性のものが占めるという研究もあるくらいです。
カウンセリングでは、専門家が「間」や「トーン」を含めて分析し、無意識にアプローチして言語化させることで、ストレスを解消することができます。
企業は「外部のプロ」と連携する仕組みを
実は、軽度のうつ状態の場合、イギリスのガイドラインでは「抗うつ薬」よりも「カウンセリング」の方が費用対効果が高いとされています。薬を使わずに回復を目指すのが第一選択肢なんですね。
国が提唱する「4つのケア」でも、社内だけでなく「事業場外資源(外部専門家)によるケア」が求められています。
皆様の会社でも外部の会計監査を入れていると思いますが、それと同じです。社内だけでやるのは構造的に難しいので、外部のプロを入れるわけです。

まとめますと、セルフケアだけでは無意識のストレスには気づけず限界があります。 顧客対応ストレスやバーンアウトに対応し、従業員を守るためには、企業として「外部の専門家によるプロフェッショナルなケア」の仕組みを用意することが重要です。
最後に弊社のサービスを簡単にご紹介します。弊社は精神科専門医が運営しており、臨床心理士・公認心理士によるオンラインカウンセリングや研修をワンストップで提供しています。
現在、多くのサービス業で導入が増えておりますので、気になった方はお気軽にお問い合わせください。
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本日はご清聴ありがとうございました。