トップコラム従業員のメンタルヘルス不調に気づいたら|気づくポイントとその後の対応

コラム

トップコラム従業員のメンタルヘルス不調に気づいたら|気づくポイントとその後の対応

従業員のメンタルヘルス不調に気づいたら|気づくポイントとその後の対応

こんにちは。臨床心理士・公認心理師の前田です。

従業員のメンタルヘルス不調に気づいたら、あなたはどうしますか?メンタルヘルス不調は、ケースによってその内容も様々です。特に産業医や保健師などの専門家がいない職場では、どのように対応すべきか悩むことも多いのではないでしょうか。今回は従業員のメンタルヘルス不調に気づくポイントとその後の対応について解説します。

職場の健康管理の仕組み

従業員のメンタルヘルス不調に対応する上で、職場の健康管理の仕組みについて理解しておくことは非常に重要です。職場は従業員が安全で健康に働けるように配慮する安全配慮義務を負っています。

従業員が病気や怪我によって、一時的に労務の提供が困難になった場合、職場(人事担当者)は産業医面談を実施し、産業医の意見を入手した上で、業務負担の軽減や休業といった就業上の措置を講じます。

この安全配慮義務を履行する立場にあるのが、管理監督者(職場の上司)です。管理監督者は、部下に指揮命令をして業務を遂行したり、部下の評価を行ったりするだけでなく、部下の健康に配慮する役割を求められています。

具体的には、部下の様子に心配なところがあれば産業医面談につなぐ、職場での対応について人事担当者とともに検討するなど、職場の健康管理の仕組みを円滑に運用する上で重要な役割を果たします。

従業員に何らかの問題が起こった場合、管理監督者の対応によっては、安全配慮義務違反や注意義務違反などの過失が問われる可能性もあります。

また、日常業務の中で部下と接する機会が多い管理監督者は、他の従業員と比べて、部下の不調に気づきやすいです。管理監督者は、従業員のメンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な対応をとる上でのキーパーソンと言えるでしょう。

従業員のメンタルヘルス不調に気づくポイント

従業員のメンタルヘルス不調に気づくポイントは「いつもと違う」ということです。それまで遅刻をしたことのない従業員が遅刻を繰り返す、急に仕事を辞めたいと言い出すなど、いつもと違う変化の背景にメンタルヘルス不調が隠れていることは少なくありません。

いつもと違う変化は様々な形で現れるので、本人よりも周囲の人のほうが気づきやすい場合もあります。具体的には、勤怠の変化、仕事のパフォーマンスの変化、行動や様子の変化などが挙げられます。

勤怠の変化〉

  • 遅刻や早退、欠勤が増える。
  • 無断欠勤がある。
  • 残業や休日出勤が不釣り合いに増える。

仕事の変化〉

  • 仕事の能率が悪くなる。
  • 仕事の納期を守れなかったり、仕事を完遂できなかったりすることが増える。
  • ミスやトラブルが増える。
  • 報告や連絡、相談が減る。

様子の変化〉

  • 表情が乏しくなり、覇気がなくなる。
  • 服装や髪型が乱れたり、不潔になったりする。
  • 口数が減る、もしくは不平不満が多くなる。
  • 不自然な言動が目立つ。
  • 周囲との交流を避けるようになる。

早い段階で適切に対応することができれば、病的な水準まで至らず回復も早いです。しかし、不調が長期化すると程度も強くなり、休養や治療が必要な状態となってしまいます。メンタルヘルス不調に早い段階で気づくためには、日頃から従業員の行動パターンや人間関係の持ち方に関心を持ち、それらを知っておくことが大切です。

メンタルヘルス不調に気づいた時の対応

従業員のいつもと違う変化に気づき、それが1週間ほど続くようであれば「声をかけて話を聴く」ようにします。できれば管理監督者が対応することが望ましいでしょう。

まずは「いつもと様子が違うけれど、どうしたの?」と声をかけて話を聴きます。プライバシーの守られる個室や会議室など、従業員が話しやすい環境で話を聴くようにしましょう。

じっくりと話を聴けるように30分程度は時間をとりましょう。口を挟まずに、従業員の話に耳を傾けます。話すことを受け止める姿勢で、従業員の気持ちや言い分を聴き出すことが大切です。

話を聴き終わったら、「話してくれてありがとう、どのように対処すれば悩みを軽くできるか検討するね」とサポートする意思を伝えます。中には声をかけても「何でもない」と言って、話すことを拒否する従業員もいるでしょう。その場合は深追いせずに一旦引き下がります。その後も観察を続け、1週間後にもう一度話を聴くようにしましょう。

職場として健康状態を心配していることを伝え、背景にメンタルヘルス不調があると思われる場合は、産業医面談や医療機関への受診、メンタルヘルスの専門家への相談を勧めましょう。

安易なアドバイスや批判は、メンタルヘルス不調に陥っている従業員にとって苦痛に感じられるものです。かける言葉によっては、従業員を傷つける可能性があるため注意が必要です。

「大変だったね」「それはつらいだろうね」といった相手のしんどさを認める言葉、「念のため医師に診てもらってはどうか、何もなければそれに越したことはないし」といった言葉はかけても問題ありません。

一方で、「お酒を飲んで騒ごう」「ストレス解消にはカラオケが一番」などの自分の経験に基づく意見を押し付ける言葉、「根性がない」「病気だと思うから病気になる」といった説教めいた言葉はかけてはいけません。

「もっと頑張れ」「君には期待している」などと激励する言葉も本人の負担になる可能性があります。どのような言葉をかけるか迷う場合は、メンタルヘルスの専門家に相談しましょう。

相談窓口につなぐ

従業員の話を聴いた上で、メンタルヘルス不調が疑われる場合、あるいはメンタルヘルス不調かどうか判断できない場合は、速やかに健康管理を行う相談窓口につなぎ、産業医面談や医療機関への受診ができる環境を整えましょう。

メンタルヘルス不調や病気の有無の判断は医師の仕事であり、職場や管理監督者が行うことはできません。従業員が産業医面談を受けることを拒む、管理監督者や周囲の人に話をしてくれないという場合は、管理監督者が産業医に会いに行く、従業員への対応も含めて相談するなどの対応をとりましょう。職場内だけで対応するうちに問題が深刻化することも少なくありません。

しかし、実際には産業医がいない、あるいは産業医に気軽に相談できないという職場もあるのが現状です。また、従業員本人が不調に気づいていたとしても、周囲に知られることや人事評価への影響を恐れ、不調を言い出せないことも多いです。

職場は、従業員や管理監督者が周囲に知られることを気にせず、気軽に安心して相談できる環境を日頃より整えておくことが大切です。

例えば、メンタルヘルスの専門家によるカウンセリングをいつでも利用できる環境を整えます。カウンセリングを通じて、自分の状態を知ってもらうことができれば、そこから不調の改善に向けた取り組みや医療機関への受診など、次のステップに進んでもらうことができるはずです。

カウンセリングは、不調を感じていない従業員の心身のコンディションを整える役割も果たすことができるため、メンタルヘルス不調に陥るのを未然に防ぐ上でも重要な取り組みと言えるでしょう。

従業員のメンタルヘルス不調を放置することは、本人のみならず、職場にとって大きな損失です。メンタルヘルス不調が疑われる従業員を早期に発見し、適切な対応をとることのできる仕組みを整えておくことが望ましいでしょう。

「従業員がメンタルヘルス不調かもしれない」「どのように対応すれば良いかわからない」など、メンタルヘルスに関する困りごとや相談がある場合は、メンタルヘルスの専門家によるカウンセリングの利用を検討してみてはいかがでしょうか。

(ライター:前田 わかな/臨床心理士・公認心理師)


参考:厚生労働省 管理監督者による部下への接し方
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000153867.pdf

一覧にもどる