コラム
メンタルヘルス不調について知ろう|メンタルヘルス不調の症状と特徴
こんにちは。臨床心理士・公認心理師の前田です。
現代社会において、身体の健康と同様に心の健康も重要であることが広く認識されています。心の健康に問題が生じている状態を“メンタルヘルス不調”といいます。メンタルヘルス不調は日常生活に深刻な影響を及ぼすこともあるため、早期発見・早期対応が非常に重要です。
一方で、「最近、気分の落ち込みが続いているけれど、これってメンタルヘルス不調なの?」「メンタルヘルス不調の予防に力を入れていきたいけれど、そもそもメンタルヘルス不調ってどういう状態なの?」など、メンタルヘルス不調が具体的にどのような状態を指すのかわからないという方も多いのではないでしょうか。
今回はメンタルヘルス不調の症状と特徴について、わかりやすく解説します。
メンタルヘルス不調って?
メンタルヘルス不調とは、社会生活におけるストレスや悩みが原因となって、心の健康に問題が生じている状態のことです。厚生労働省の指針では、「精神および行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的および行動上の問題を幅広く含むもの」と定義されています。メンタルヘルス不調といえば、長時間労働やハラスメントなどを契機に、うつ病や適応障害などの精神疾患を発症し、休養を要する状態というイメージをお持ちの方が多いかもしれません。ですが、たとえうつ病や適応障害などの精神疾患を発症していなくても、ストレスや悩みによって気分が落ち込んでいる状態であれば、メンタルヘルス不調に該当します。
メンタルヘルス不調の特徴
メンタルヘルス不調には、「心身の一番弱いところに出る」という特徴があります。気分の落ち込みや不安感などの精神的な症状だけでなく、身体的な症状として顕在化することもあります。
通勤中に呼吸が苦しくなる、会議前にお腹が痛くなる、仕事中だけ血圧が上がるといった症状は、心身症と呼ばれるメンタルヘルス不調の一種です。同じようなストレスがかかっていたとしても、気分の落ち込みや不安感などの精神的な症状を訴える人もいれば、頭痛や腹痛などの身体症状が前面に出る人もいます。
仕事のプレッシャーや試験前の緊張など、一時的に気分が落ち込んだり、お腹が痛くなったりするのもメンタルヘルス不調に該当するのかというと、そうではありません。メンタルヘルス不調は「症状の持続性」と「日常生活への影響」が特徴です。
一時的なストレス反応とは異なり、メンタルヘルス不調では持続的な変化が生じます。日常生活や社会的機能に影響を与え、仕事の生産性の低下、人間関係における問題の発生、日常的に行っているタスクへの取り組みの困難が伴うこともあります。
メンタルヘルス不調は深刻で持続的な問題であり、専門家のアドバイスとサポートが不可欠です。一方で、一時的なストレス反応は、特定の状況や課題に対する短期的な変化です。適切に対処すれば数日から数週間で改善することが多く、日常生活への影響も限定的です。
しかし、メンタルヘルス不調とそうでない状態の線引きは時に曖昧であり、個人の状況によっても異なります。自分で判断するのではなく、専門家の評価を受けることが望ましいでしょう。
メンタルヘルス不調の原因
メンタルヘルス不調の原因の多くはストレスです。職場におけるストレスでは、長時間労働や上司による激しい叱責など、精神的な負担の大きいエピソードを思いつく方が多いかもしれません。
しかし、それ以外にもストレスとなる些細な出来事は、日常生活の中で多く発生しています。例えば、通勤ラッシュで電車内が混み合っている、明日までにまとめなくてはならないデータがある、同僚と気が合わないといったこともストレスとなります。
昇格や昇進などの一般的に喜ばしい出来事であっても、そのインパクトの大きさや受け止め方によっては強いストレスとなることがあります。厚生労働省が実施している労働安全衛生調査(令和4年)によると、現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は82.2%にも及ぶことが示されています。
つまり、多くの人が仕事に関することで、強い不安やストレスを感じているといえます。職場外でのストレスも無視できません。結婚や出産、別居や離婚、家族の体調不良、育児や介護、借金やローンといった経済的問題など、誰もが何かしらのストレスを経験しています。誰もがメンタルヘルス不調に陥る可能性があるということです。
しかし、上記のようなストレスによって、すべての人がメンタルヘルス不調になるわけではありません。同じ出来事であっても、ある人にとっては問題なく、ある人にとっては大きなストレスとなる場合があります。職場におけるストレス、職場外でのストレス、個人のストレス耐性の低さ、周囲からのサポートの有無などが影響し合って、メンタルヘルス不調に陥るかどうかが決まります。
誰がいつメンタルヘルス不調になってもおかしくないと理解しておくことが重要です。
サインが出ていたら要注意!メンタルヘルス不調の症状と徴候
メンタルヘルス不調は放置すると、うつ病や適応障害などの精神疾患を発症するリスクが高まるため、早期発見・早期対応が非常に重要です。メンタルヘルス不調のサインには、「本人が気づく変化」と「周囲が気づく変化」があります。自分や周囲の人がメンタルヘルス不調に陥っていないかをチェックするために、以下の症状と徴候に注意しましょう。
(1)本人が気づく変化
本人が気づくメンタルヘルス不調の症状は、心理面・身体面・行動面の変化として現れます。
〈心理面の変化〉
- 気分が落ち込んだり、不安になったりすることが多い。
- 何をしても楽しくない。
- 些細なことでイライラしてしまう。
- 考えがまとまらず、集中できない。
- 気力がなく、何をするのもおっくうに感じる。
- この世から消えてしまいたいと思うことがある。
- 自分には価値がないと感じる。
〈身体面の変化〉
- 食欲がなくなる。
- 寝つきが悪く、夜中や朝方に目が覚める。
- 動悸やめまい、耳鳴りがする。
- 肩こりや頭痛、腹痛、腰痛などの痛みが出てくる。
- 下痢や便秘をしやすくなる。
- 突然涙が出る。
- 疲れがとれず、体がだるい。
〈行動面の変化〉
- 人付き合いが面倒になって、周囲との交流を避けるようになる。
- 飲酒や喫煙量が増える。
- 食べすぎてしまう、もしくは寝すぎてしまう。
- ギャンブル、買い物、ゲーム、動画、SNSなどが止められない。
(2)周囲が気づく変化
周囲が気づくメンタルヘルス不調の徴候は、いつもと違う行動や様子の変化として現れます。「以前のこの人ならできていたことが、できていない」と感じたら、注意が必要です。
〈勤怠の変化〉
- 遅刻や早退、欠勤が増える。
- 無断欠勤がある。
- 残業や休日出勤が不釣り合いに増える。
〈仕事の変化〉
- 仕事の能率が悪くなる。
- 仕事の納期を守れなかったり、仕事を完遂できなかったりすることが増える。
- ミスやトラブルが増える。
- 報告や連絡、相談が減る。
〈様子の変化〉
- 表情が乏しくなり、覇気がなくなる。
- 服装や髪型が乱れたり、不潔になったりする。
- 口数が減る、もしくは不平不満が多くなる。
- 不自然な言動が目立つ。
- 付き合いを避けるようになる。
特に、勤怠の変化は周囲の人も気づきやすいです。数回の軽い遅刻から始まり、休みを取得する日が徐々に増え、ついには会社に来られなくなるなど、状態の悪化とともに深刻になってしまうことがあるため、注意が必要です。
メンタルヘルス不調かもしれない時は
メンタルヘルス不調の症状や徴候が現れた場合は、ストレスに対処する方法を検討し、実行する必要があります。「自分は今、メンタルヘルス不調を抱えているのかもしれない」と感じたら、速やかに専門家の評価を受けるようにしましょう。
メンタルヘルス不調を未然に防ぐことも重要です。自分自身のストレスを理解し、日常的に心身のコンディションを整えるよう意識しましょう。メンタルヘルス不調の症状や徴候が出ていなくても、ストレスや悩みがある場合は、一人で抱え込まずに周囲の人や専門家に相談するようにしましょう。
メンタルヘルス不調は誰にでも起こり得るものです。精神的な症状だけでなく、身体的な症状として顕在化することもあります。放置すると、精神疾患を発症するリスクが高まるため、早期発見・早期対応が非常に重要です。「自分はメンタルヘルス不調かもしれない」「予防のためにストレスに対処する方法を知りたい」など、メンタルヘルスに関する困りごとや質問がある場合は、医療機関への受診や専門家によるカウンセリングを検討してみてください。専門家によるカウンセリングは、心の健康をサポートし、ストレスにうまく対処するための一助となるでしょう。
(ライター:前田 わかな/臨床心理士・公認心理師)