コラム
その職場改善、現場の課題とズレていませんか? ~ストレスチェック結果を活かし、現場に合った改善策を考える~

「高ストレス者が多い部署には面談を増やす」「リスク値が下がったから、取り組みはうまくいっている」。ストレスチェックの集団分析結果をもとに、このような判断をしていませんか?一見妥当に見える対応でも、数値だけで施策を決めてしまうと、現場で本当に起きている課題とズレてしまうことがあります。
本記事では、株式会社マイシェルパの開催セミナー「その職場改善、現場の課題とズレていませんか?~ストレスチェック結果を活かし、現場に合った改善策を考える30分実践セミナー~」をレポートします。
目次

吉田 哲久(カウンセラー)
株式会社マイシェルパ / 公認心理師・臨床心理士
精神科クリニックに10年勤務し、年間1,000件を超えるカウンセリングを担当。現在は株式会社マイシェルパ カウンセリング部に所属し、法人担当者に向けたメンタルヘルス施策の助言や研修を行うほか、個人向けのカウンセリングや心理検査も実施している。
はじめに:ストレスチェックの目的と集団分析
まず、ストレスチェックの復習から始めましょう。
ストレスチェックの目的は「メンタル不調の未然予防」です。医療における予防には1次・2次・3次予防がありますが、ストレスチェックの主目的は、調子が悪くなる前に防止する「1次予防」に該当します。
事業者の皆様は、ストレスチェックを実施したら集団ごとに集計・分析するように努めなければならないとされています。この集団ごとの分析自体や、分析した結果を「集団分析」と呼びます。

集団分析結果の基本的な読み取り方
現在、様々なストレスチェックサービスがあり、企業ごとに出力されるシートの形式やデータは少しずつ異なります。しかし、「判定図」と「リスク値」は厚生労働省の規定により出力されるため、多くのサービスに共通して含まれています。最低限この読み取りが必要になります。

オレンジの箇所の各項目の点数は、その集団の平均点になっています。
赤い枠の「健康リスクA・B」ですが、これはパーセンテージで示されます。
例えば120であれば120%となり、全国平均に比べて疾病で休業や休職するリスクが20%高いことを意味します。例として挙げている「95」であれば、休業・休職が発生する確率が全国平均を少し下回っていることになります。
健康リスクAは「仕事によるストレスがどれだけ大きいか」、健康リスクBは「ストレスを緩和する周囲のサポートがどの程度あるか」を示しています。
そして最後が「総合リスク値」です。こちらも疾病が発生する確率(パーセンテージ)で表されます。仕事のストレス(A)と周囲のサポート(B)の2つを掛け合わせたもの(健康リスクA × 健康リスクB ÷ 100)が総合リスク値になります。ストレスが高いか、サポートはできているか、これらを合わせた結果として読み取ります。
図の見方についてですが、健康リスクAに関わる「仕事の量的負荷」と「仕事のコントロール」の図では、右下の赤いところに近づくほど悪化していることを示します。

健康リスクBに関わる「上司・同僚の支援」を示すもう1つの図は、左下の赤い部分に近づくと悪化(支援がない状態)することを示します。例に出した数値(109)では色がついており、注意が必要な状態です。

集団分析結果を読み解く「5つの罠」
ここから集団分析結果を読み解くのですが、よく陥りがちな「5つの罠」についてお伝えします。中には「良かれと思ってやっていたことが、実は逆効果だった」というケースも含まれますので、耳の痛い方もいらっしゃるかもしれません。
1. 平均値の罠
先ほど、総合リスク値が90という数字が出ました。これは休職する確率が他社より10%低いということですが、この集団はストレスが高くないと言えるでしょうか? そうとは言えません。
半数が極端に高ストレスで、もう半数が極端に低ストレスの場合、低得点の人数が少し多ければ、結果として総合リスク値が低く算出される可能性があるからです。総合リスク値の高低だけを見てもあまり意味はなく、本来であれば標準偏差や分布などの「ばらつき」まで見なければ、その集団の本当の状態を把握することはできません。

2. 外れ値の罠
ある部署のリスク値が昨年と比べて20上がったとします。この場合、その部署の課長のマネジメントに問題があると言えるでしょうか? 絶対にそうとは言えません。
例えば、プライベートで大きな不幸があった方が1人いるだけで、平均値が大きく変動する可能性があります。特に人数が少ない部署ほど、他の人よりはるかに数値が高い(または低い)人がいると、その「外れ値」に結果が大きく引っ張られてしまいます。

3. 関係性の罠
ある部署が「仕事量」の得点が高く、「働きがい」の得点も高かったとします。では、その部署では仕事量を増やせば働きがいが上がると言えるでしょうか? 言えませんよね。
働きがいを感じているから自ら仕事量が多くなっている可能性もありますし、他の要因が両方に影響している可能性もあります。データ上では因果関係の特定はできません。ストレスチェックレベルのデータ分析で因果関係を特定するのは難しいと覚えておいてください。これは因果関係ではなく「相関関係」です。

4. バイアスの罠
ある部署の高ストレス者の割合が0%でした。この場合、その部署の職場環境は非常に好ましいと言えるでしょうか? これも絶対とは言い切れません。
なぜなら、回答を拒否した「非回答者」が高ストレス者である可能性があるからです。このようにデータになっていない部分にも目を向けることが重要です。結果として数字が出ると「これが我が社の結果だ」とバイアス(思い込み)にとらわれてしまうことが多くありますが、数字だけを読んではいけません。
また、人数が少ないと外れ値の影響を受けやすいですが、逆に規模が大きくなると、数値は平均に近づいていくため、高ストレス者が多数いてもマスク(隠匿)されてしまうことがあります。同じ部署でも夜勤と日勤が混ざっていたり、働く場所が違ったりする場合、一括りに集計してしまうと読み違える可能性があります。時期(繁忙期や新人配属時期など)によるバイアスもあるため、どのようなタイミング・分け方で分析をしたのかを意識する必要があります。

5. データ量の罠
リスク値以外の様々なデータを大量に提供してくれる会社もありますが、データ量が多いほど分かることも多いというのは正しいでしょうか? 正しくありません。
いくらデータがあってもばらつき、分布、標準偏差などが出ていない場合、平均だけを出されても意味はありません。不必要なデータが多くても、分かることは増えません。

統計学の基礎知識と倫理的な配慮
正しい読み取りには、統計学の基礎知識を身につける必要があります。たとえ産業医等の医師でも、研究やデータ分析に触れる機会が少ないと、正しく読み取れないこともあります。
また担当者が「データをたくさん出してください」と要求することがありますが、人間を対象として統計データを取る際、不必要なデータを収集することは倫理的に禁止すべきであるとされています。大学等の学術機関であれば、信頼を大きく損ねることや担当者の罷免にもつながるような問題行為です。
統計的な分析ができないのに意味もなくデータを要求したり、従業員に不必要な検査をさせたりするのは、一歩間違えればハラスメントと言われてもおかしくありません。「念のため」「よく分からないからたくさん取っておく」という考え方は、従業員への負担にもつながりますので、注意が必要です。
職場環境改善の進め方
集団分析結果を正しく読み取った上で、職場環境改善における3つのポイントを覚えておいてください。
- 現場の状況をしっかり見る
- 職場の良いところに着目する
- 実現可能なアクションにする
具体的な進め方について、事例を見ていきましょう。
【事例1:イライラが高く、上司の支援が低い】
NGな改善事例
データから「上司のマネジメントが悪いから不満が溜まっている」と仮説を立て、改善計画として「メンバーにアンガーマネジメント研修を受けさせる」「上司に厳重注意する」としました。
これはデータだけで因果関係をつけており、現場の状況も見ていません。
また、理不尽な状況に対してアンガーマネジメントは解決になりませんし、厳重注意(罰)によって適切な行動が学習されることはないため、実現可能な計画とは言えません。

正しい改善事例
まずは結果をそのまま受け取り、現場にヒアリングや見学に行きます。すると、「上司とメンバーの関係性は良い」「機械トラブルが頻発し、その復旧に上司の承認が必要で、あちこちで上司が確認に走り回って無駄な時間が発生している」という状況が分かりました。
これらを合わせて「トラブルが多く、上司の承認待ちでイライラが高まっている」という現場に即した仮説を立てます。改善計画は「サブリーダーに承認権限の一部を委譲する」「機械トラブルが多い原因を検討する」となります。改善計画は、現場の状況をしっかり見て、現場に即した実現可能なものにすることが重要です。

【事例2:抑うつ気分が高く、質的負担が高い】
NGな改善事例
データから「精神的負荷が高いので落ち込んでいる」と仮説を立て、「自己啓発セミナーを実施する」「パルスサーベイを導入する」としました。 これもデータだけで因果関係をつけており、現場の状況を見ていません。自己啓発セミナーを受けてポジティブになればメンタルが鍛えられるというわけではありません。

正しい改善事例
現場の状況を確認すると、「専門職の部署であり質的な負荷の高さは避けられない」「極端にスコアの悪い人が1人おり、部署の人数が少ないため平均が悪く引っ張られていた」ことが分かりました。
専門職の部署で質的負荷が高く出るのは証拠であって悪いことではありません。 本人の申告や産業医面談を通じて「特定の1名がメンタル不調になっている」ということが分かったため、職場全体にケアをする必要はなく、その1名に対して上司がケアをしたり、相談窓口の情報を部署内で共有したりする対応が適切となります。ばらつきが分かると、このような対応ができるようになります。

まとめ
職場環境改善のためには、集団分析結果の正しい読み取りが必要です。そして、結果と現場の状況を照らし合わせて考えることが非常に重要です。
職場改善とは、単に「悪い数値(課題)を潰す」ことだけではありません。社内の人間関係の良さという「強み」を活かしたり、専門職ならではの避けられない負荷を他の環境でカバーしたりと、「現場の良いところを活かして補い合う」アプローチが非常に有効です。
本日のセミナー内容が、皆様の事業場における実りある職場環境改善の一助となれば幸いです。ぜひ今後の運用に活かしていただければと思います。
最後に、弊社では、無料で始められる「ストレスチェック」も提供しておりますので、これらを合わせてぜひご検討いただければと思います。
>ファースト・ストレスチェック
本日はご清聴いただき、誠にありがとうございました。
