コラム
高ストレスでも相談しない社員に、企業はどう向き合うか ― ストレスチェック実施後に求められる対応と支援の考え方―

本日は、「高ストレスでも相談しない社員に、企業はどう向き合うか ―ストレスチェック実施後に求められる対応と支援の考え方―」というテーマでお話しさせていただきます。
目次
ー スピーカー:吉田 哲久(株式会社マイシェルパ 臨床心理士、公認心理師)
まずは簡単に自己紹介をさせてください。マイシェルパの吉田と申します。臨床心理士および公認心理師の資格を持っており、カウンセリング業務を行うだけでなく、ストレスチェック実施者の資格も保有しています。法人担当者の方からのストレスチェック後のご相談や、その後の指導なども担当しております。本日はそうした経験をもとに、お話ししていきたいと思います。
第1部:高ストレス者対師で企業がつまずきやすいポイント
最初におさらいですが、ストレスチェックの目的は「メンタルヘルス不調の未然防止(一次予防)」にあります。令和7年度の法改正により、これまで対象外だった50人未満の事業場でもストレスチェックの実施が義務化されました。施行の期日は未定ですが、今後3年以内にどの会社でも実施されることになります。
ここで、ストレスチェックにおける「よくある誤解」についてお話しします。 相談を受けていてよくあるのが「高ストレス者=問題社員」だと思っているケースです。これは大きな誤解です。ストレスチェックというのはあくまで結果であって、原因ではありません。したがって、高ストレスの社員がいるからといって、その人が問題だということにはなりません。
同じように、「ストレス反応が強い(抑うつやイライラが強い)=能力や意欲が低い」と考えるのも誤りです。これらは全くイコールではありません。
ストレスの結果は、「本人の特性(性格)」と「環境」の2つの相乗効果によって生まれます。
例えば、爆発力はあるけれどコツコツした作業が苦手な人が、延々と単調な仕事を任されればストレスが溜まります。他にも、環境の負荷がものすごく高ければ(例えば仕事量が極端に多いなど)、本人の特性に関係なく誰でも高ストレスになります。そのため、「高ストレス=問題社員ではない」ということを覚えておいてください。
ストレスへの対応を理解するための武器:「疾病性」と「事例性」
今回の内容を深く理解していただくために、「疾病性」と「事例性」という概念を知っていただきたいと思います。
医師による面接指導が十分に行き届かない背景には、現行のストレスチェック制度が想定している対象と、実際の高ストレス者が抱える悩みとの間にギャップが存在することが挙げられます。
現行の制度は主に、過重労働などが原因でうつ症状などが出ている「疾病性(病気)」の状態を想定して構築されています。このケースであれば、医師が症状に対応し、事業者が職場環境を改善するという両輪でのサポートが可能です。
しかし実際には、「職場の人間関係に悩んでおり、強いストレスを感じているものの、不眠や食欲低下などの具体的な症状は出ていない」というケースが少なくありません。このように、病的な症状を伴わない、病気以外の困りごとを「事例性」と呼びます。
医師は主に病気や症状を診る専門家であるため、こうした事例性の相談には対応しづらいのが実情です。その結果、症状はないものの悩みを抱える高ストレス者が、現行の仕組みからこぼれ落ちてしまうという課題が生じています。


第2部:なぜ高ストレスでも面接指導につながらないのか?
では、なぜ高ストレスでも面接指導につながらないのか。結論から言うと、次の「3つの要因」が関連し合って、相談できない状況を作り出しているのが今の日本の現状です。

1. 個人的な要因
「会社に迷惑がかかる」「自力でなんとかすべき」「これくらい普通だ」といった社会的な規範や、「正常性バイアス」という認知の歪みです。日本人はこうした意識が強く、ストレスがあっても見て見ぬふりをしてしまいます。
2. 教育的な要因
「何がストレスか分かってるから大丈夫」「ストレスなんて大したことない」「相談するなんて弱い」といった声を聞くことがあります。しかし、これは明らかな知識不足であり、誤った理解です。
「ストレス」を「売上」、「相談」を「対処」と置き換えてみてください。「売上が悪い原因がわかっているから対処しなくても大丈夫」とはなりませんし、「売上が悪いからって対処するのは弱い奴のやることだ」と言っていたら、明らかにおかしいですよね。 日本ではメンタルヘルスについて学校でも学ぶ機会がないため、ストレスやその対処を軽視してしまう方が非常に多いのです。
3. 環境的な要因
医師による面接指導の利用やその結果は、会社側に知られてしまいます。そのため、心理的安全性が低いと言えます。さらに、人間関係の悩み(事例性)で医師のところに行っても、お医者さんは病気を診る専門家なので、話を聞いてくれないことが多いです。お医者さんにも解決できなかった、というがっかり感が強くなってしまうのが3つ目の要因です。
これら3つの要因が絡み合って、今の構造では高ストレス者に対応できない状況になっています。
第3部:ケースで考える、対応に迷いやすい場面
ここからは、私がよくご相談を受ける「3つのケース」について、どのように対応すべきかをお話しします。
ケース1:従業員がストレスチェックを軽視・形骸化している場合

このケースは、先ほどの「教育的な要因」が当てはまります。メンタルヘルス教育が不足しているため、まずは研修を実施していただくのが一番お勧めです。 研修のポイントは、「ストレスは気づくだけでは意味がなく、対処までがワンセットである」と伝えることです。また、ストレスは心だけの問題ではなく、不眠や腰痛、めまいなどの身体症状や、お酒が増えるといった行動にも大きな悪影響を及ぼすことを改めて知ってもらうことが大切です。そして「相談することは弱さではなく、強さ(会社としての強みや必要な対処)である」という認識に変えていく必要があります。
ケース2:部署内に高ストレス者が1人だけの場合

会社や業務自体に問題はないのに、1人の結果に引っ張られて部署全体の集団分析が悪くなるケースです。これは環境的な要因であり、事例性か疾病性かはわかりませんが、相談しづらい環境になっていると言えます。 この場合は、医師の面接指導とは別に、事例性に対応できる「外部の相談窓口」を用意することが非常に良い対応です。内部の窓口だと「会社にバレてしまう」と危惧する方が多いため、会社にバレない安全な外部の窓口を提供することが重要です。医師の面接(疾病性の対応)だけに頼らない支援動線づくりがポイントになります。
ケース3:問題社員がいて、そのせいで部署全体の点数が悪い場合

特定の人のせいで部署の雰囲気が悪かったり、ミスをフォローして業務が滞っているケースです。これは個人の要因が大きいため、職場としての対応よりも、その方への個別対応が効率的かつ理にかなっています。 効果的なのが「認知行動療法」という、科学的でエビデンスのあるカウンセリング技法です。単なる傾聴や共感だけで終わるのではなく、認知の歪みを指摘して修正できる専門家(臨床心理士や公認心理師などのきちんとした資格を持つ心理士)に依頼することが重要です。
第4部:医師面接だけに頼らない支援動線の整え方
事これらを踏まえて、新しい仕組みづくりをご提案します。 現行の「ストレスチェックをして医師の面接につなげる」という仕組みだけでは、なかなか面接指導につながりません。
新しい仕組みでは、まず研修を行って皆さんの意識を変えます。そしてストレスチェックの実施と同時に、相談しやすい環境を社内で整えます。 そうすることで、症状がある(疾病性の)方は医師による面接指導へ、困りごとがある(事例性の)方は外部の相談窓口へつながるという動線が実現できます。事例性の方には、認知行動療法を実施して改善を図っていきます。
相談しやすい環境づくりの3つのポイント
最後に、相談しやすい環境を作るためのポイントをお伝えします。
早期対応が適切な自己管理につながるという風土の醸成
「ストレスには早めに対処したほうがいい」と、上司や同僚からも声をかけられるような雰囲気ができれば、相談窓口につながりやすくなります。
複数の相談先の明示
医師と、事例性に対応できる相談窓口の両方を用意しておくことで、従業員自身が「今は病気の症状が強いからお医者さんへ行こう」「今は困りごとが強いから相談窓口へ行こう」と迷わず気軽に選ぶことができます。
専門家による客観的なデータが自己成長につながるという認識
相談を特別なことではなく「普通のこと」にし、専門家からのフィードバック(1on1のようなイメージ)が自分の成長につながるのだという認識を持ってもらうことも大切です。

本日の内容は以上となります。ぜひ本日の知見を、今後の取り組みに活かしていただければと思います。ありがとうございました。

吉田 哲久(カウンセラー)
株式会社マイシェルパ / 公認心理師・臨床心理士
精神科クリニックに10年勤務し、年間1,000件を超えるカウンセリングを担当。現在は株式会社マイシェルパ カウンセリング部に所属し、法人担当者に向けたメンタルヘルス施策の助言や研修を行うほか、個人向けのカウンセリングや心理検査も実施している。