コラム
ハラスメントとは?職場で起きやすいハラスメントと企業におけるハラスメント対策まで解説

近年、企業における「ハラスメント」に関する様々な問題は深刻化しています。「パワハラ」や「セクハラ」といったよく知られるものにとどまらず、「マタハラ」や「モラハラ」など、その種類は増加の一途をたどっています。それらを正しく理解し、適切な対策を講じることが求められています。
本稿では、職場で起きやすいハラスメントの具体的な事例を紹介しながら、企業が取り組むべき効果的なハラスメント対策についてわかりやすく解説します。
目次
ハラスメントとは
ハラスメントとは、他者に対して嫌がらせや不快感を与える行為全般を指します。暴力などの身体的な行為だけでなく、暴言や無視、差別的な発言、過剰な監視など、言葉や態度によって精神的なダメージを与える行為も含まれます。
職場で起こる代表的なハラスメント
No | ハラスメント名 | 定義 |
---|---|---|
1 | パワハラ(パワーハラスメント) | 職場における優越的な関係を背景とした言動により、社員の職場環境を害すること |
2 | セクハラ(セクシュアルハラスメント) | 職場における性的な言動により、社員に対して不利益を与え、職場環境を害すること |
3 | マタハラ(マタニティハラスメント) | 妊娠・出産・育児に関連した言動や待遇によって、女性社員の職場環境を害すること |
4 | モラハラ(モラルハラスメント) | 精神的苦痛を与える言動や態度によって、相手の尊厳や人格を侵害すること |
5 | カスハラ(カスタマーハラスメント) | 顧客からの過度な要求や無理なクレームによって、社員の職場環境を害すること |
職場ではさまざまなハラスメントが発生する可能性があり、特にパワハラ、セクハラ、マタハラなどのハラスメントが多く報告されています。職場において発生しやすいハラスメントの種類や特徴について解説します。
パワハラ(パワーハラスメント)
パワハラ(パワーハラスメント)とは、職場における優越的な関係を背景とした言動により、社員の職場環境を害することです。例えば、上司が部下に対して業務に直接関係のない個人的な雑用を命じたり、意見を無視して重要な会議から排除したりするような行為が含まれます。労働施策総合推進法30条の2では、パワハラの要件を以下の通り定めています。
パワハラの要件
- 優位的な関係に基づいて行われること
- 上司から部下、集団から個人、または知識や経験に優れた社員からそうでない社員に対する行為が該当します。
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であること
- 正当な業務指示や指導の範囲を超えた言動が対象です。
- 社員の職場環境を害する言動であること
- 典型的には、後述するパワハラの6類型に該当する行為がこれに当たります。
パワハラ6類型
No | 類型 | 例 |
---|---|---|
1 | 身体的な攻撃(暴行・傷害) | 叩く、殴る、蹴る、丸めたポスターで頭を叩くなどの行為。 |
2 | 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言) | 同僚の前で叱責する。他の社員を宛先に含めたメールで罵倒する。必要以上に長時間にわたり繰り返し執拗に叱責する。 |
3 | 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視) | 合理的な理由なく別室に席を移させる。強制的に自宅待機を命じる。送別会に出席させない。 |
4 | 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害) | 仕事のやり方がわからない新人に他の社員の業務を押し付ける。 |
5 | 過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと) | 運転手に営業所の草むしりだけを命じる。事務職に倉庫業務だけを割り当てる。 |
6 | 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること) | 交際相手について執拗に質問する。社員の家族に対して侮辱的な発言をする。 |
セクハラ(セクシャルハラスメント)
セクハラ(セクシャルハラスメント)とは、職場における性的な言動により、社員に対して不利益を与え、職場環境を害することです。男性から女性に対するものと思われがちですが、女性から男性、または同性同士でも起こり得ます。男女雇用機会均等法11条では、セクハラの要件を以下の通り定めています。
セクハラの要件
- 職場において行われる性的な言動であること
- 承諾のないボディタッチ、身体的な特徴に関する言動、性的な行動や考え方を詮索する言動などが該当します。顧客企業や出張先、業務の延長にある宴会、接待の場なども対象となります。
- 以下のいずれかに該当すること
- ① 社員の対応によって労働条件に不利益が生じること
- 性的な言動への拒否や抵抗への報復として、特定の社員が不利になるような行動を起こすことが該当します(対価型セクハラ)。例えば、昇進の機会を意図的に奪う、評価面談で低評価をつける、重要なプロジェクトから排除するなどの行為が含まれます。他人への性的な言動をやめるように注意した後に報復を受ける場合も含まれます。
- ② 社員の職場環境を害する言動であること
- 性的な言動によって生じる職場環境への悪影響が該当します(環境型セクハラ)。
セクハラの種類
職場におけるセクハラは、大きく4種類に分けられます。
No | 種類 | 定義 | 例 |
---|---|---|---|
1 | 対価型セクハラ | 仕事上で何らかの措置を優遇する対価として性的な行為を要求し、拒否された場合に不利益を与える行為。 | 昇進・昇給を条件に性的関係を迫る。拒否された腹いせに降格や不本意な部署への異動を命じる。 |
2 | 環境型セクハラ | 社員の意に反する職場での性的な言動や装飾物の設置により、社員の職場環境を不快にする行為。 | 休憩中に性的な話題を持ち出す。職場内にヌードポスターを掲示する。飲み会でお酌を強要する。 |
3 | 制裁型セクハラ | 性別に基づき、相手に不当な扱いをする、または差別的な態度を取る行為。 | 女性上司の指示を無視し、男性上司に確認を取り直す。「女性はサポート役に徹するべき」などと発言する。 |
4 | 妄想型セクハラ | 相手が自分に好意を持っていると一方的に思い込み、接触を図る行為。 | 休日も一緒に過ごそうと執拗に誘う。毎日のようにメッセージを送り続ける。 |
マタハラ(マタニティハラスメント)
マタハラ(マタニティハラスメント)は、妊娠・出産・育児に関連した言動や待遇によって、女性社員の職場環境を害することです。
マタハラの主な例
- 言動による嫌がらせ
- 例:「出産や育児で休むなら仕事を辞めてほしい」「休むことで他の人に迷惑がかかっていることを自覚するように」などと発言する。
- 待遇の不利益
- 例:産前産後休業や育児休業を取得することを理由に役職を剥奪する。産前産後休業や育児休業を取得することを理由に派遣社員との契約を更新しない。
モラハラ(モラルハラスメント)
モラハラ(モラルハラスメント)は、精神的苦痛を与える言動や態度によって、相手の尊厳や人格を侵害することです。上下関係などの「優越的な関係」を背景とするパワハラとは異なり、モラハラには、対等な関係や劣位者からの嫌がらせも含まれます。同僚間や部下から上司への関係でも発生するということです。
モラハラの主な例
- 人格を否定するような侮辱的な言動
- 例:仕事ができない同僚に対して「無能だ」「バカだ」などと発言する。同僚の交友関係について「あんな人と付き合うなんて非常識」などと批判する。
- 会話や連絡の無視
- 例:産前産後休業や育児休業を取得することを理由に役職を剥奪する。産前産後休業や育児休業を取得することを理由に派遣社員との契約を更新しない。
- 仕事上での嫌がらせ
- 例:仕事中にしつこく話しかけ、作業の邪魔をする。成果を出している同僚の悪口を上司に伝え、評価を下げようとする。
- プライベートへの過度な干渉
- 例:預金額や経済状況をしつこく聞き出そうとする。家族関係やプライベートな出来事について執拗に詮索する。
- 特定の人を仲間はずれにする
- 例:懇親会の予定を特定の社員にだけ知らせない。
カスハラ(カスタマーハラスメント)
カスハラ(カスタマーハラスメント)は、顧客からの過度な要求や無理なクレームによって、社員の職場環境を害することです。暴行や傷害といった身体的攻撃、暴言や脅迫といった精神的攻撃、過度な要求、継続的かつ執拗な言動、拘束的な行動などが該当します。企業は、カスハラと正当なクレームの違いを判別する必要があります。
カスハラの基準
- 顧客の要望に妥当性があるかどうか
- 自社に不手際があり、顧客の発言に妥当性があった場合、正当なクレームとして扱う必要があります。一方で、自社に落ち度がないにも関わらず、顧客が言いがかりをつけている場合は毅然とした対応をすべきです。
- 顧客の要望を実現するための手段・態様が社会通念上適当かどうか
- 顧客の要望に妥当性があったとしても、それを実現するための手段や態様が社会通念上適当でない場合、カスハラに値する可能性があります。
カスハラの主な例
- 社員を怒鳴りつけたり、暴言・罵声を浴びせたりする行為
- 社員への土下座の要求
- 電話や店舗での長時間にわたる説教
- ミスに対するお詫びとして、無料で商品・サービスを提供するよう執拗に要求する行為
ハラスメントが起きやすい職場の特徴

ハラスメントが発生しやすい職場には、以下のような特徴があります。まずは職場の現状を正確に把握し、改善すべき点を認識することが重要です。
ハラスメントへの認識が低い
ハラスメントが起きやすい職場では、社員のハラスメントに対する認識が低いケースが多く見られます。例えば、上司からの厳しい指導が「教育」だと誤解されたり、同僚への軽口が「冗談」として流されたりする場合です。どのような行為がハラスメントに当たるのかを理解していないと、意図せずハラスメントとなる言動をしてしまう可能性があります。
実際にハラスメントが起きたとき、被害者が心身ともに傷ついている一方で、加害者は「冗談だった」「ただのいじりだった」といった認識で、悪意がないケースも少なくありません。このような被害者と加害者の間の認識のギャップが、ハラスメントを引き起こす一因となります。
さらに、「部下には厳しく指導するべき」「新人は早めに出社するのが当然」といった先入観や思い込みが、ハラスメントを発生・継続させてしまう要因になることもあります。社員一人ひとりが、自身の無自覚な偏見に気づき、相手の立場を尊重した行動を心がけることが必要です。
閉鎖的な職場環境
閉鎖的な職場環境もハラスメントが起きやすい特徴の一つです。外部との交流が少なく、社員同士のコミュニケーションが乏しい職場では、古い価値観や誤った人権感覚が見直される機会がないため、ハラスメントが発生しやすい傾向があります。
外部から見れば明らかに問題のある行為であっても、職場内ではそれが「普通」として受け入れられ、誰も注意や相談をしないままハラスメントが常態化するケースもあります。例えば、長時間残業が当然視される文化や、声の大きい者の意見が優先される風潮が放置される場合が該当します。閉鎖的な職場を改善するためには、上司の意識改革や、社員が安心して相談できる仕組み作りが必要です。
ハラスメント発生時に企業が負うリスク・損失

ハラスメントの問題は予防が大切です。対策を怠ると、企業は法的責任、職場環境の悪化、人材不足など、多大なリスクを抱えることになります。
法的責任を負う可能性がある
ハラスメントは通常、個人間の問題として扱われますが、社員からの相談に企業が適切に対応しない場合、企業が法的責任を問われる可能性があります。結果として、企業イメージや職場環境の悪化といった重大な影響を引き起こす可能性もあるでしょう。
損害賠償責任
社員に対するハラスメントが、企業側の安全配慮義務や職場環境配慮義務に反したと判断された場合、被害者に対して損害賠償責任を負うことがあります。適用される法的根拠は以下の通りです。
- 民法715条:使用者責任(社員の行為による損害についての企業責任)
- 民法415条:債務不履行による損害賠償責任(職場環境改善の義務を果たさなかった場合)
- 民法709条:不法行為による損害賠償責任(被害者の権利を侵害し損害を与えた場合)
刑事責任
ハラスメントは民法の他、刑法に違反するとして刑事責任を問われる可能性もあります。刑法では、暴行罪、名誉毀損罪、強制わいせつ罪といった犯罪に対する処罰について定められています。これらに抵触する場合、行為者や加担者が刑事責任を問われることがあります。悪質なケースでは刑罰が科される可能性があるでしょう。
懲戒処分
ハラスメントが発覚した場合、企業として職場の規律を維持するために、懲戒処分を検討する場合があります。行為者や加担者に対して、減給や降格、出勤停止、懲戒解雇といった処分を下す必要が生じるケースもあるでしょう。処分を適切に行うためには、事実関係の調査を徹底することが不可欠です。
メンタルヘルス不調者・休職者・退職者の増加による人材不足
ハラスメントは社員のメンタルヘルスに悪影響を与え、企業に深刻な人材不足を引き起こすリスクがあります。
社員の生産性の低下
ハラスメントを受けた社員は、ストレスや心理的な萎縮から、本来のパフォーマンスを発揮できなくなる可能性があります。集中力の欠如やモチベーションの低下により、業務のミスや遅延が増えることもあるでしょう。
さらに、周囲の社員にも不信感が広がり、職場全体の士気が下がる可能性もあります。こうした状況が続くと、業務上の重大な事故や生産性の低下を招く恐れがあります。
優秀な社員の休職・退職
ハラスメントによるメンタルヘルス不調が原因で、社員が休職や退職を選ぶことがあります。このような場合、企業は人材の喪失に加え、代替要員の確保や育成に多大なコストを負担しなければなりません。若手、中堅、ベテランのどの層が抜けても、企業にとっては大きな損失です。
また、ハラスメントが放置されることで、残った社員も「安心して働けない」と感じ、退職を選ぶケースもあるでしょう。結果として、企業への信頼が低下し、新たな人材の採用や定着が困難になる可能性もあります。
人事、コンプライアンス担当者の問題対応にかかるコストの増加
ハラスメントが発生した場合、企業には適切に対処する責任があります。しかし、特に中小企業では対応するためのリソースが不足しがちです。人事部門やコンプライアンス担当者が通常業務を中断して対応にあたる必要があり、その間、通常業務が滞る可能性があります。
場合によっては、外部の専門家に調査を依頼して、別途費用や人件費が発生することもあるでしょう。対応が遅れると、被害者や周囲の不満が高まり、さらなる退職や企業イメージの悪化を引き起こす可能性があるため、迅速かつ適切な対応が求められます。
企業が知っておくべきハラスメントに関する法律

近年、ハラスメント問題に対応するための法律が整備され、企業にはこれらの法律に基づく適切な措置や対応が求められています。ハラスメント対策を行う際は、以下の主要な法律を正しく理解し、実効性のある取り組みを進めることが重要です。
労働施策総合推進法(パワハラ防止法/ハラスメント規制法)
労働施策総合推進法は、働きやすい職場環境を目指して、労働問題の是正や多様な働き方の推進について定めた法律です。2020年6月の改正でパワハラに関する企業の義務が明記されたことから、「パワハラ防止法/ハラスメント規制法」とも呼ばれています。2020年6月から大企業に、2022年4月から中小企業に適用されています。
主な内容 | ・職場におけるパワハラ防止措置の義務化 ・ハラスメントを相談した社員への不利益な取り扱いの禁止 ・違反時の是正指導や勧告、企業名公表の可能性 |
企業の責務 | ・職場でのパワハラを防止し、相談窓口の設置や再発予防策を含む対策を講じる ・適切な教育や支援体制を整備する |
労働安全衛生法
労働安全衛生法は、ハラスメントを直接規制するものではありませんが、社員の健康を守るための包括的な体制を構築する基盤として重要な役割を果たします。
主な内容 | ・ストレスチェック制度の実施 ・長時間労働による健康障害防止措置の義務化 ・安全衛生管理者や産業医の設置義務 ・快適な職場環境の形成と教育の実施 |
企業の責務 | ・安全衛生管理の中でハラスメント防止の視点を取り入れ、職場環境の改善に努める ・ハラスメントが社員の健康に及ぼす影響を考慮し、適切な対策を講じる |
男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法は、雇用における男女の平等を確保することを目的としています。特に、セクハラやマタハラの防止・対応策が定められています。
主な内容 | ・職場におけるセクハラ・マタハラ防止措置の義務化 ・ハラスメントを相談した社員への不利益な取り扱いの禁止 ・他社社員によるハラスメント発生時の調査・対応への協力義務 ・違反時の是正指導や勧告、企業名公表の可能性 |
企業の責務 | ・職場でのセクハラ・マタハラの防止・対応策を講じる ・相談窓口の設置と再発防止策の実施 |
育児・介護休業法
育児・介護休業法は、育児や介護に伴う休業取得に関する法律です。育児や介護に関連したハラスメントについて、防止措置を講じる必要性が定められています。
主な内容 | ・育児・介護休業に関連したハラスメント防止措置の義務化 ・2022年4月施行の「産後パパ育休制度」など、休業制度の拡充 |
企業の責務 | ・育児・介護休業に関連したハラスメントの防止・対応策を講じる ・社員が安心して休業制度を利用できる職場環境を整備する |
ハラスメントの予防対策

「加害者にならないために」「被害者にならないために」「もしハラスメントを見かけたら」という3つの視点から、対策を考えていきましょう。
ハラスメント加害者にならないための予防対策
1. 自分の常識と相手の常識は異なることを理解する
- 時代や価値観の変化を認識する
自分が過去に「普通」だと感じていた言動が、現在の価値観では不適切とされる場合があります。自分の「当たり前」が他人にとっては違う可能性があると認識し、相手の立場を考えることが大切です。
- 「だろう」ではなく「かもしれない」と考える
物事を「わかっているだろう」「大丈夫だろう」と思わず、「わかっていないかもしれない」「受け入れられていない許されないかもしれない」と考え、確認を怠らないことでトラブルを回避できます。ハラスメントにありがちな「相手も合意の上だと思っていた」「相手を傷つけるつもりはなかった」といった事態を防ぐことができます。
2. 相手に合わせたコミュニケーションを取る
ハラスメントか否かの判断には「相手がどう感じたか」が非常に重要です。全員に同じ対応をするのではなく、相手の特性に応じた公平な対応するよう心がけましょう。
3.指導とパワハラの違いを正しく認識する
業務上必要な「指導」がエスカレートして「パワハラ」になってしまった、という事例は多くみられます。パワハラと指導の違いを正しく認識することが重要です。
指導とパワハラの違い
指導 | パワハラ |
---|---|
成長を支援し、能力を引き出す | 感情的に攻撃し、威圧する |
具体的な改善方法を示し、サポートする | 問題点の指摘のみで、改善支援がない |
叱責の必要性と目的を明確にする | 理由を示さず、一方的な叱責する |
人前での叱責は極力避ける | 人前での過剰な叱責を行う |
指導を行う際には、指導の目的を明確にし、一方的ではなく対話を重視し、相手の気づきを促すよう心がけましょう。上司は自分の言動が部下に与える影響力が想像以上に大きいことを認識しておきましょう。
ハラスメント被害者にならないための予防対策
1. うまく断る方法を知る
相手から「この人は何をしても言いなりになってくれそう」と思われると、ハラスメントを受ける対象となってしまう可能性があります。上司や取引先など「No」を伝えにくい相手に対しても、柔らかく断る方法を身に付けましょう。
「アサーティブ」という考え方
自己表現の方法には以下の3つがあると言われています。
- 非主張的:自分の考えや気持ちを抑え、相手に言わない
- 攻撃的:自分の考えや気持ちを第一に考え、相手に主張する
- アサーティブ:自分と相手双方の考えや気持ちを同等に扱い、自分の意見を率直に伝える
非主張的、攻撃的なパターンは人間関係を壊す可能性があります。自他ともに尊重し、率直に自分の意見を伝えるアサーティブは、長期的に健全かつ良好な人間関係を築くために役立ちます。カウンセリングなどを活用し、アサーティブなコミュニケーションを身に付けることがオススメです。
2. いざというときの相談窓口を確認する
職場環境や相手の特性によっては、ハラスメントを防ぐことができません。深刻化する前に、相談することが重要です。ハラスメントを受けた場合の相談窓口を事前に確認し、必要時に素早い行動がとれるようにしておきましょう。
3. 「ハラスメントかもしれない」と思ったら記録をつける
相談窓口に相談し、その後の対応を考える際には、事実が重要になります。「ハラスメントかもしれない」と感じることがあれば、日時や場所、自分と相手の状況、相手の言動などを記録しておきましょう。記録することで、相談や対応がスムーズに行えます。
ハラスメントを見かけた際にとれる対策
1. してはいけないこと
- 加害者に同調する
加害者の発言や行動に対して、笑ったり同意したりすることは、無意識のうちに加害者を支援する行動とみなされ、被害者を孤立させる原因になります。「自分は同意していない」という意思を示すことが大切です。直接的な指摘が難しくても、その場を離れるなどの行動で「不適切である」というサインを送るようにしましょう。
- 被害者を責める
「それくらい我慢できるのでは?」「あなたにも原因があるのでは?」といった言葉は、被害者をさらに追い詰め、問題が深刻化する原因になります。被害者に寄り添い、「何かあったら話を聞くよ」「一緒に解決策を考えよう」と積極的に支援する姿勢を示すようにしましょう。自分一人で対応が難しい場合は、信頼できる同僚や上司、専門窓口と協力して環境を整えるよう心がけましょう。
- 被害者の意向を優先しすぎて行動をためらう
被害者の意向を確認することは重要ですが、それを優先しすぎるあまり、結果的に問題を放置してしまうことは隠蔽につながります。被害者が「問題を大きくしたくない」と言う場合でも、その背景には「話しても信じてもらえないかもしれない」「状況が悪化するかもしれない」といった不安があることが多いです。この場合、被害者に安心感を与えながら、「環境改善のために適切な対応が必要である」ことを丁寧に伝えましょう。緊急性が高い場合や被害者の安全が脅かされる場合には、本人の意向に関わらず、迅速に相談窓口や管理職に対応を依頼することが求められます。
2. するといいこと
- 被害者の不安を取り除くためのコミュニケーション
意向確認の際には、被害者が孤立感を抱かないように配慮し、「職場を改善するために一緒にできることを考えたい」と伝えることが重要です。安心して相談できる環境を整え、被害者が自ら動けるよう支援しましょう。
- 職場全体での早期発見と対応
ハラスメントが深刻化する前に対応するためには、態度や行動の変化、職場の雰囲気の変化など、「小さなサイン」を見逃さない文化を醸成することが必要です。軽微な問題でも相談しやすい仕組みを整え、誰もが声を上げやすい職場づくりを目指しましょう。
- 積極的に第三者のサポートを活用する
ハラスメントの対応は一人で抱え込まず、必要に応じて第三者のサポートを積極的に活用することが重要です。社内の相談窓口や専門家、外部機関に協力を依頼することで、客観的な視点や適切な対応策を得ることができます。また、被害者や加害者にとっても、第三者が介入することで状況を整理しやすくなる場合があります。サポートを早期に活用することをためらわない姿勢が大切です。
これらの対策を通じて、ハラスメント防止に向けた行動を積極的に取り入れることが重要です。職場全体での意識向上が、安心して働ける環境作りにつながります。
企業が取り組むべきハラスメント対策

企業がハラスメント対策に取り組む際には、厚生労働大臣が定めた指針に基づき、具体的な措置を実施することが求められます。
ハラスメントに関する研修の実施
ハラスメントを防止するためには、全社員がその重要性を正しく理解することが必要です。研修を通じて、ハラスメントの定義や種類、職場での適切な言動について学び、職場内の意識を統一しましょう。管理職には、ハラスメント予防におけるリーダーシップの役割や、問題発生時の迅速かつ適切な対応方法を学ぶ研修を行います。
研修の実施が難しい場合には、外部サービスの活用も有効です。これにより、社員一人ひとりの意識を高め、管理職が問題を適切に管理・解決できる体制が整うことが期待されます。結果として、職場全体でハラスメントの発生を未然に防ぐ基盤を築くことができます。
相談窓口の設置
ハラスメントの予防だけでなく、問題発生時に適切に対処できる体制を整えることも重要です。社員が安心して利用できる相談窓口を設置しましょう。相談窓口の利用方法について社員に周知し、相談者のプライバシーを保護するための措置を徹底するとともに、相談を理由とした不利益な扱いを防ぐ方針を明確に伝えることが大切です。
また、相談しやすい環境を整える工夫も必要です。例えば、人目につかない場所に相談室を設置する、オンライン相談窓口を開設するなど、社員が気軽に利用できる環境を整えましょう。相談を受けた後は、迅速に事実関係を調査し、被害者への配慮や行為者への厳正な対応を徹底します。再発防止策も講じることで、企業の信頼を維持することができるでしょう。
ハラスメント対する企業方針の明確化
ハラスメントを防止するためには、企業としての基本方針を明確に示し、全社員と共有することが必要です。この方針には、ハラスメントに対する企業の基本姿勢や、ハラスメントに該当する行為の例、問題発生時の対応手順と行為者への処分方針などを具体的に盛り込むことが求められます。
ただし、厳罰化一辺倒では、加害者も被害者も事態を大きくしたくないあまり問題が表面化しなくなることが懸念されます。そのため、企業方針には、小さな問題が発生した段階で、すぐに状況を確認し、解決に向けて手を打つことのできるようなアプローチや支援を含めることが重要です。加害者にも被害者にも過度な負担をかけず、コミュニケーションのスキルや適切な態度を向上させる取り組みを行い、職場全体で問題を前向きに解決しようとする文化をつくることが求められます。管理職には、上記の方針を徹底的に理解させ、職場全体に浸透させることで、問題発生時の迅速かつ適切な対応ができるようになるでしょう。
社員のメンタルヘルスケアができる専門サービスの導入

ハラスメントの防止と適切な対応は、企業にとって重要な課題です。しかし、社内のみでの対応には限界があります。外部の専門サービスを活用することで、より効果的な対策が可能になります。
ハラスメント対策における社内での難しさ
ハラスメント対策を社内で行う際、以下のような課題があります。
- 専門知識の不足
法令や対策が随時更新されるため、管理職や相談窓口の担当者が常に最新の情報を把握するのは難しいです。
- プライバシーや不利益な取り扱いへの懸念
相談窓口が同じ職場の社員によって運営されている場合、相談者がプライバシーや不利益な取り扱いへの懸念を抱き、利用をためらうケースもあります。
- リソースの制約
研修の企画や実施、相談窓口の整備、ハラスメント問題発生時の調査・対応には多大なリソースが必要です。特に中小企業でこれらを独自に行うことは大きな負担となります。
ハラスメント問題が発生した際に適切な対応を怠ると、企業の信頼を損なう深刻な事態に発展する可能性があります。早期対応は企業のリスクマネジメントの観点からも極めて重要です。このような状況に対応するためには、外部の専門サービスの活用が効果的です。特に、社員が守秘義務の下で安心して相談でき、メンタルヘルス支援を受けることができるカウンセリングサービスの活用がオススメです。相談者が安心して問題を共有し、適切な支援を受けられる環境を整えましょう。
専門サービスの活用による効果的なハラスメント対策
専門サービスを活用することで、次のような効果が期待できます。
- 研修の充実
外部講師による研修を導入すれば、最新の法令に基づいた質の高い教育を全社員や管理職に提供することができます。
- 外部相談窓口の設置
外部の相談窓口を設けることで、社員が安心して相談できる環境を整えることが可能です。社内窓口では相談しづらいケースでも、外部の第三者機関であればプライバシーが保護され、相談者の心理的なハードルが下がります。
- 企業方針の策定支援
専門機関の支援を受けて企業方針を策定すれば、法令遵守に基づいた明確で実効性の高い対策が実現します。
専門サービスを活用することで、企業は効果的なハラスメント対策を進め、社員が安心して働くことのできる環境を構築できます。これにより、社内の信頼性が向上し、リスクを最小限に抑えることができるでしょう。
マイシェルパ
「マイシェルパ」は、精神科専門医が直接運営するオンラインカウンセリングサービスです。臨床心理士や公認心理師といった専門資格を持つカウンセラーが在籍しています。匿名性が確保され、相談内容も原則非開示のため、社員は安心して悩みを相談することができます。必要時には医療機関や産業医とも連携が可能です。
加えて、ストレスチェックやメンタルヘルス研修、スポット産業医などの企業向けサービスにも対応しており、メンタルヘルスに関するソリューションをワンストップで提供しています。社内担当者とも密に連携し、産業保健に精通したスタッフが担当者に定期的なフィードバックを行いながら、企業ごとの課題解決に協力して取り組みます。
マイシェルパを活用することで、企業は社員のメンタルヘルスケアを強化し、ハラスメント防止に向けた取り組みを効果的に進めることができます。詳細についてはこちらをご覧ください。
マイシェルパの導入成功事例
成功事例3 : 認定NPO法人カタリバ

認定NPO法人カタリバは、学校に多様な出会いと学びの機会を届け、10代が積極的に社会に参画していけるようにするための活動に取り組んでいます。職員のサポート体制強化のために、マイシェルパを導入しました。導入前は産業医や人事担当が職員の面談を行い、十分なサポートができていないという課題がありましたが、導入後は対応の選択肢が増え、人事負担も軽減されました。
認定NPO法人カタリバ:https://my-sherpa.co.jp/case/01-2/
成功事例1 : アウンコンサルティング株式会社

アウンコンサルティング株式会社は、日本でいち早くSEOのサービス提供を開始し、マーケティング支援事業を展開している会社です。メンタルヘルスに関する課題を可視化したものの、課題解決に向けた効果的な施策が打てず、悩んでいました。マイシェルパは、臨床心理士や公認心理師の資格に加え、他の資格を併せ持つカウンセラーが多く、プラスアルファの対応ができそうな点に惹かれました。メンタルヘルス不調対策だけではなく、人事・労務担当者の負担軽減や社員の成長にも役立っています。
アウンコンサルティング株式会社:https://my-sherpa.co.jp/case/08-2/

前田 わかな(臨床心理士・公認心理師)
臨床心理士・公認心理師。早稲田大学大学院を修了後、医療機関や産業保健分野で豊富な経験を積み、臨床の実践において専門性を磨いてきました。特に産業保健の現場において、働く世代のメンタルヘルスやストレスマネジメントに長く携わり、多様なニーズに応じた支援を行っています。