コラム
従業員エンゲージメントとは?定義から効果の見込める向上方法まで解説

企業活動の源泉は人、すなわち人的資本であり、特に従業員エンゲージメントは、企業価値向上や、業績の向上、離職の防止などにプラスの影響をあたえる重要な要因として注目されています。日本では、労働生産人口が1995年をピークに減少を始め、今後も加速していく事を考慮すると、人的資本の充実、すなわち従業員エンゲージメントはより重要な指標となります。
Contents
本稿では、従業員エンゲージメントの基本概念を説明するとともに、具体的にどのようにエンゲージメントを向上させられるか、その方法を解説します。
従業員エンゲージメントとは?

従業員エンゲージメントの定義
従業員エンゲージメントとは、社員が企業の理念に共感し、企業の目標達成に向けて主体的かつ積極的に関与している状態を指します。これは、社員が企業に対してどれだけの信頼を寄せているか、企業とのつながりがどれほど強いかを示す指標でもあります。
エンゲージメントが高い社員は、企業に対して愛着心を持ち、積極的に自分の役割を果たすことで、組織の目標達成に貢献しようとします。
一方、非常に似た概念で、ワークエンゲージメントというものがありますが、これは、個々の「仕事そのもの」に対して持つ熱意、満足感、没頭の度合いを指します。仕事への積極性や充実感を測る心理的な状態です。生産性を向上させるためには、仕事そのものにも、エンゲージメントが高いことが望ましいので、よりワークエンゲージメントが重要な指標となります。従業員エンゲージメントとワークエンゲージメントとは相互に作用しますので、本来的には両方が高いことが望ましいといえます。
従業員エンゲージメントと混同しがちな用語
従業員エンゲージメントは「従業員満足度」「モチベーション」「ロイヤリティ」といった用語と混同されることがありますが、これらはそれぞれ異なる意味を持ちます。従業員エンゲージメントを正しく理解するためには、用語の違いを押さえておくことが重要です。
従業員満足度
従業員満足度は、職場環境や人間関係、業務内容などに対する社員の満足度を示す指標です。社員が仕事に満足していることは重要ですが、従業員満足度は必ずしも企業への貢献度や業務に対する意欲と直結するものではありません。
例えば、働きやすい環境が整っていて満足度が高い社員でも、業務に消極的で、企業の目標達成に直接貢献していないケースはあり得ます。従業員満足度が高くても、必ずしも高いエンゲージメントがあるとは言えません。
モチベーション
モチベーションは、個人のやる気や動機付けを意味する用語で、個人の内面的な感情に基づくものです。社員が何かに取り組む際の意欲や目的意識を表しますが、これが必ずしも企業の目標やビジョンと一致するとは限りません。
一方、従業員エンゲージメントは、社員と企業との関係性や絆を表すものであり、企業の方向性に対して社員が主体的に貢献しようとする姿勢が含まれます。
ロイヤリティ
ロイヤリティは、社員が企業に対して持つ忠誠心や愛着心を指します。企業と社員が主従となる関係を示す概念です。
一方で、従業員エンゲージメントは、社員が企業の指示を受けるだけでなく、自発的に企業の目標達成に向けて積極的に行動することを重視します。社員の自主性や主体性がより重要視される点でロイヤリティとは異なります。
従業員エンゲージメントを構成する要素

従業員エンゲージメントは、「理解度」「共感度」「行動意欲」の3つの要素から構成されています。これらの要素は、社員が企業に対してどれほど深く関わり、主体的に貢献するかを測る指標となります。
理解度
社員が企業の理念やビジョンをどれだけ理解しているかは、従業員エンゲージメントを高めるための土台となる要素です。企業の価値観や目指すべき方向性を社員と共有することで、理想を実現するための意識が高まります。
例えば、経営層が描く理想像や戦略が社員に十分伝わっていれば、社員は「自分の役割が企業の目標達成にどうつながるか」を具体的に理解し、主体的に行動しやすくなります。明確なコミュニケーションやビジョンの共有がこの要素を支える鍵です。
共感度
企業に対する共感は、従業員エンゲージメントの中核を成す重要な要素です。社員が企業の価値観やビジョンに共感できるほど、「自分の仕事が企業の理念に沿っている」という実感が持てるようになります。
この共感は、組織文化やリーダーシップ、職場環境と密接に関連しています。例えば、企業が透明性・公平性が高い経営方針を実践したり、社会的に意義のある目標を掲げている場合、社員の共感度は自然と高まります。共感度が高い社員ほど、主体性を持って業務に取り組む姿勢が強くなります。
行動意欲
社員が自主的に企業のために行動しようとする姿勢や意欲も、従業員エンゲージメントを構成する大切な要素です。自分の行動が企業の成長や業績の向上につながっていると感じるほど、自発的に行動する意欲が高まります。
行動意欲が高い社員は、単なる業務遂行を超えて、創造性や問題解決能力を発揮することがあります。新しいアイデアを提案したり、他の社員を積極的にサポートしたりする行動は、行動意欲の高さを示す具体例と言えるでしょう。
日本企業の従業員エンゲージメントの現状

日本企業における従業員エンゲージメントは、非常に低い水準にあります。アメリカの世論調査会社であるギャラップ社が行った調査では、日本は主要123ヵ国の中で最下位の123位に位置しています。この順位は、世界の中で日本企業の従業員エンゲージメントが極めて低いことを象徴しています。もちろん、各国の状況や労働環境は異なるため、この調査結果を単純に比較するのは難しい部分もあります。しかしながら、こうしたデータは、日本企業が従業員エンゲージメントを向上させる必要性を示していると考えられます。
日本企業が成長を続けるためには、社員との強固なつながりが不可欠です。企業は経営方針や働き方改革、社員とのコミュニケーションの見直しを行い、エンゲージメント向上に向けた具体的な取り組みを進める必要があるでしょう。
従業員エンゲージメント向上が注目される背景

近年、働き方の多様化やリモートワークの普及といった社会的な変化を背景に、多くの企業で従業員エンゲージメントの向上が注目されています。
- 働き方の多様化
終身雇用制度が崩壊し、1つの企業で定年まで働き続けることが当たり前ではなくなりました。転職や再就職が一般的になり、社員にとって「どの企業で働くか」を選ぶ自由度が高まっています。このような状況下で、企業が優秀な人材を確保し、長期的に定着させることが大きな課題となっています。
従業員エンゲージメントを高めることで、社員が企業に愛着を持ち、積極的に貢献したいと感じるようになり、離職率の低下や優秀な人材の流出防止につながると期待されています。特に人材の流動性が高まる現代において、エンゲージメントの向上は、企業の競争力を維持する重要な施策となっています。
- リモートワークの普及
新型コロナウイルス感染症の影響で、リモートワークが急速に普及しました。職種によっては非対面でのコミュニケーションが定着し、社員同士のつながりや企業との一体感が希薄になるケースが増えています。特にリモートワーク環境では、以下のような課題が指摘されています。
- チーム内の情報共有不足による疎外感の増大
- マネジメントの不透明さが生む不信感
- 社員が業務へのモチベーションを失い、離職リスクが高まる
これらの課題を解決するには、社員が「企業の一員としての意義」を感じられる環境を作ることが重要です。従業員エンゲージメントを向上させることで、社員の不安を軽減し、企業への帰属意識を高めることができます。
従業員エンゲージメントを高めることで得られる効果

従業員エンゲージメントを向上させることは、企業にとって多くのメリットをもたらします。社員一人ひとりの意識や行動が変化することで、企業全体の成長につながる効果が期待されます。
生産性の向上を通じて、企業の成長や利益につながる
従業員エンゲージメントが高まると、社員が企業の目標達成や業績向上に積極的に関与するようになります。例えば、日常業務において、効率改善やコスト削減を意識的に行う社員が増えるため、企業全体の生産性が向上するでしょう。
さらに、エンゲージメントの高い社員は、スキルアップや新しい技術の習得に対して意欲的です。企業全体の人材レベルが向上し、新しいプロジェクトや事業にも柔軟に対応できるようになります。結果として、企業の競争力が高まり、持続的な成長や利益拡大につながるでしょう。
社員の定着率が上がる
従業員エンゲージメントが高い社員は、企業への共感や信頼が強いため、長く働きたいと考えるのは当然と言えるでしょう。離職率が低下し、定着率が向上する効果が期待できます。仮に業務上で困難に直面したとしても、企業に留まりながら解決策を模索しようとするため、結果として優秀な人材を長期間維持することができます。長期的に優秀な人材を維持することで、組織の安定性が高まり、計画的な事業運営が可能となるでしょう。
企業への対外的な信用が高まる
従業員エンゲージメントの向上は、企業のサービスや製品の質を高め、顧客満足度の向上につながります。これにより、顧客や取引先からの信頼が強まり、企業のブランドイメージが向上します。また、社員の定着率が高く、安定した組織運営を行っている企業は、外部からの評価が高まるため、優秀な人材の採用にも有利に働くでしょう。
従業員エンゲージメント向上に取り組むためのステップ

従業員エンゲージメントは、自然に高まるものではありません。企業が主体的に取り組むことで、初めて向上が期待できるものです。社内目標やビジョンの共有、社員同士のコミュニケーション促進といった施策を行っても成果が得られない場合、自社に根付く風習や慣習など、当たり前と思われている部分を見直す必要があります。ここでは、従業員エンゲージメント向上のための具体的なステップを解説します。
現状の課題の洗い出し
従業員エンゲージメント向上の第一歩は、自社の現状を分析し、課題を明確にすることです。エンゲージメント低下の要因は企業によって異なりますが、特に以下のような問題が挙げられます。
- 組織の複雑化:縦割り構造により、他部署の業務内容が見えづらい
- 業務の細分化:業務が細かく分業されることで、自分の業務がどのような成果につながるか実感しづらい
特に、大規模な組織改編や環境変化があった場合には、社員のエンゲージメントに影響が出ていないかを注意深く確認する必要があります。サーベイやアンケートを活用し、エンゲージメント低下の要因を洗い出し、具体的な課題を特定しましょう。
従業員エンゲージメント施策の策定・実行
課題が明確になったら、具体的な施策を策定し、実行に移します。以下は代表的な施策の例です。
- 社内制度や風土の見直し
- ノー残業デーの導入、不要な会議の削減
- フレックス制度の試験導入
- リモートワークのバランスの見直し
- 管理方式をボトムアップ型に変更
- 社員の意見を積極的に吸い上げる仕組みを構築
- 意見を尊重することで社員の主体性を引き出す
- 組織体系や承認フローの簡素化
- 不要な役職を削減し、社員が質問や相談をしやすい環境を整備
- 承認プロセスをスムーズにし、業務の煩雑さを解消
社員が働きやすい環境を整えることが、エンゲージメント向上につながります。
施策の効果検証・改善
施策を実行した後は、その効果を検証し、必要に応じて改善を行いましょう。例えば、以下の方法が考えられます。
- 満足度調査:施策実施前後の比較を行い、変化を数値化
- フィードバック収集:社員からの意見をもとにさらなる改善を模索
施策は一度きりで終わらせるのではなく、継続的に見直しを行い、改善を重ねることが必要です。このプロセスを繰り返すことで、エンゲージメント向上の取り組みがより効果的なものとなります。
従業員のエンゲージメントを向上させる効果的な方法

従業員エンゲージメントを向上させるためには、企業の価値観や目標を共有するだけでなく、社員が働きやすい環境や成長の機会を提供することが不可欠です。
理念・ビジョンの浸透
企業の理念やビジョンを明確にし、社員に浸透させることは、従業員エンゲージメントを高める基本的な取り組みです。社員が企業の方向性や目標を理解し、共感することで、自発的に貢献しようとする意欲が高まります。理念が社員にとって単なる「スローガン」で終わらないよう、日常的に言及し、具体的な行動に落とし込むことが必要です。
職場環境の整備
社員が生産的かつ効率的に働ける職場環境を整えることで、従業員エンゲージメントを向上させることができます。職場環境が整っていないと、社員のパフォーマンスが発揮されないだけでなく、不満の原因にもなりかねません。必要なツールやソフトウェアの導入、快適なオフィス設備の提供などによって、環境を整えましょう。単に物理的な環境を整えるだけでなく、心理的安全性を重視した環境づくりも重要です。社員が安心して意見を言える職場文化の構築が必要です。
ワークライフバランスの確立
社員が十分に休息を取れ、充実した生活を送れる環境を整えることで、従業員エンゲージメントを高めることができます。過剰なストレスや長時間労働は、燃え尽き症候群や体調を崩すリスクを引き起こし、エンゲージメントを低下させる要因となります。社員が自分のライフステージや価値観に合った働き方を選べるようにすることが重要です。企業が社員の健康や生活のバランスを考慮することで、社員のモチベーションを高めることができるでしょう。
コミュニケーションの活性化や改善
社員同士のコミュニケーションを活性化させることは、チームワークを強化し、組織全体のエンゲージメントを向上させます。特にリモートワークが増える中では、社員間のつながりを維持することが一層重要です。消極的な社員が孤立しないよう、リーダーが積極的にフォローアップし、誰もが意見を言いやすい環境を作ることが大切です。
人事制度やキャリア形成の見直し
社員が自身の成長を実感し、キャリアの将来像を描ける環境を整えることは、エンゲージメント向上の鍵となります。企業が社員の成長を支援することで、社員は自分のスキルや価値を高める意欲を持つようになります。評価制度は、単に結果を評価するだけでなく、プロセスや成長を重視したものにすると、社員のやる気を引き出しやすくなります。また、キャリアパスを明確に提示することで、社員が将来を見据えた行動を取れるようになります。
エンゲージメントを高めるためのメンタルケア

従業員エンゲージメント向上の鍵の一つは、職場のメンタルヘルス管理です。社員が心理的に安定し、心身共に健やかな状態で働ける環境を整えることが、エンゲージメントの向上に直結します。心の健康が保たれている社員は、業務に積極的に取り組むことができます。企業への貢献意欲も高まるため、結果的に生産性やチームワークが向上するでしょう。
社員が抱える悩みやストレスを早期に解決するためには、相談しやすい環境を提供することが必要です。その解決策として、「マイシェルパ」のようなオンラインカウンセリングサービスの導入が効果的です。
「マイシェルパ」は、精神科専門医が直接運営するオンラインカウンセリングサービスです。臨床心理士や公認心理師といった専門資格を持つカウンセラーが在籍しています。匿名性が確保され、相談内容も原則非開示のため、社員は安心して悩みを相談することができます。必要時には医療機関や産業医とも連携が可能です。
加えて、ストレスチェックやメンタルヘルス研修、スポット産業医などの企業向けサービスにも対応しており、メンタルヘルスに関するソリューションをワンストップで提供しています。社内担当者とも密に連携し、産業保健に精通したスタッフが担当者に定期的なフィードバックを行いながら、企業ごとの課題解決に協力して取り組みます。
マイシェルパを活用することで、社員一人ひとりが自分の力を最大限に発揮できる環境を整えることができます。これにより、企業全体の競争力を高めるとともに、社員と共に成長する企業文化の構築を支援します。詳しくは、「マイシェルパ法人向けページ」をご参照ください。

前田 わかな(臨床心理士・公認心理師)
臨床心理士・公認心理師。早稲田大学大学院を修了後、医療機関や産業保健分野で豊富な経験を積み、臨床の実践において専門性を磨いてきました。特に産業保健の現場において、働く世代のメンタルヘルスやストレスマネジメントに長く携わり、多様なニーズに応じた支援を行っています。