コラム
サーベイとは?基本から実施方法、活用法まで徹底解説
サーベイとは、特定のテーマに関する意見や情報を収集するための調査手法で、ビジネスや医療、ITなど幅広い分野で活用されています。目的や実施方法も多岐にわたり、組織における課題の把握や改善にも役立てられています。本稿では、組織におけるサーベイの概念や具体的な実施方法、活用法などについて、解説します。
サーベイとは?
サーベイとは、物事の全体像を把握するために行われる調査のことです。組織内では、社員が抱えている課題や意見を把握し、より良い職場環境を実現するために活用されることが多いです。また、マーケティングにおいても、ユーザーからの印象や評価を調べる目的で用いられます。できるだけ多くの人を対象にすることで、多様な意見を収集することができ、全体像を捉えやすくなります。
サーベイと他の調査手法の違い
サーベイとアンケートの違い
アンケートは、特定の情報を収集するために、対象者に同一の質問を投げかけて回答を集める方法です。主に、人々の意見、評価、好み、経験、知識などのデータを収集するために使用され、対象者はあらかじめ用意された質問や選択肢に沿って回答していきます。
一方、サーベイは、情報収集のプロセス全体を指しており、アンケートを含むさまざまな方法で情報を収集します。
サーベイとリサーチの違い
リサーチは、特定のテーマに関する情報収集やデータの分析を通じて理解を深める体系的な調査を指します。問題の定義からデータ収集、分析、結論導出まで、幅広いプロセスを含みます。リサーチの目的は、新しい知識の獲得、問題解決、学術研究など、多岐にわたります。
一方で、サーベイは、特定の情報を効率的に収集するための手法であり、リサーチの一部として使用されることがあります。
「サーベイ」には組織課題に応じて種類がある
サーベイは、組織内外の情報を収集するための有効なツールとして、さまざまな分野で広く活用されています。組織におけるサーベイにはいくつかの種類があり、目的や課題に応じてデザインが異なります。ここでは、代表的な7つのサーベイについて解説します。
従業員サーベイ
概要:従業員サーベイは、社員の意見や課題、職場に対する満足度を把握するための調査です。職場環境や業務に対する満足度を評価することができます。
目的:組織が抱える課題を特定し、効果的な改善策を見つけることが目的です。得られた結果をもとに、リーダーシップ能力の育成やコミュニケーション、職場環境の改善などを図り、より組織効率的・化機能的な組織作りを促します。
効果:社員に意見を聞くことで、組織や業務への関心が高まり、満足度の向上が期待できます。また、社員のニーズを理解し、組織体制を見直すことで、離職率の低下も見込まれます。
限界点:匿名性が確保されていない場合、社員が本音を述べにくい場合があります。また、サーベイの結果が改善に結びつかない場合、かえって社員の不満が高まるリスクもあります。
パルスサーベイ
概要:パルスサーベイは、毎週や毎月といった短い間隔で簡潔な質問を用いて実施する調査です。社員の意見をリアルタイムで収集します。質問内容は特定の課題に絞られており、短時間で回答が可能です。
目的:組織の課題を早期に把握し、迅速に改善策を講じるために実施されます。特定のテーマや状況に応じてタイムリーに実施することで、課題に対する即時的なフィードバックを得ることが可能です。
効果:課題を早期に把握し対応することで、社員の満足度向上や業務効率化が期待できます。定期的な意見収集により、職場の動向を把握しやすくなり、継続的な改善につなげることができます。
限界点:頻繁に行うと社員の負担になり、回答が疎かになる可能性があります。また、質問が簡潔であるため、表面的な情報しか得られない場合があります。
エンゲージメントサーベイ
概要:エンゲージメントサーベイは、社員の業務への意欲や満足度、組織に対する帰属意識を評価するための調査です。
目的:社員が抱えている不満や課題を特定し、適切な改善策を見つけることが目的です。適切な改善策を講じることで、エンゲージメントを高め、組織全体の活力を向上させることを目指しています。
効果:社員の声を反映した改善策を講じることで、業務や組織に対する満足度が高まり、離職率が低下する可能性があります。エンゲージメントの向上により、社員のパフォーマンスや組織への貢献度が高まることが期待されます。
限界点:エンゲージメント向上は短期間で実現することが難しく、成果が見えるまでに時間を要することがあります。また、エンゲージメント向上の効果測定が困難な場合があります。
モラールサーベイ
概要:モラールサーベイは、社員の士気や意欲に焦点を当てた調査です。仕事に対する幸福度や満足度、ストレスレベル、協力意欲など、心理的・感情的な側面を評価します。
目的:社員が感じているストレスや不満、協力意識の低下など、組織の問題や課題を早期に発見するために実施します。社員の心理的な状態を把握し、職場環境を改善することで、組織全体の士気を向上させることが目的です。
効果:結果に基づいて適切な改善策を講じることで、社員の士気を高揚させ、最適な職場環境を提供することができます。
限界点:結果の解釈が曖昧になりやすく、感情的な側面の改善が難しい場合があります。
コンプライアンス意識調査
概要:コンプライアンス意識調査は、社員の法令遵守に対する意識を評価するための調査です。法令や規則を遵守し、法令違反によるリスクを管理するために使用されます。
目的:組織としての法的なリスクを把握し、対策を講じるために実施されます。組織内における法的問題や規律違反を最小限に抑え、法的な教育の必要性を特定し、教育プランなどを計画します。
効果:組織として法令を遵守し、社員の意識を育成することで、組織内の管理体制の強化が期待できます。
限界点:実施頻度が少ないと、効果が持続しにくい可能性があります。また、社員が本音で回答しない場合、実際の意識を把握するのは難しいです。
アセスメントサーベイ
概要:アセスメントサーベイは、社員のスキル、能力、パフォーマンスを評価するための調査です。社員が持つ能力や適性を明らかにするため、的確な人材配置が可能になります。
目的:調査結果をもとに、能力開発計画などを策定し、人事決定や昇進、報酬の基準を確立するために使用します。
効果:社員のスキルと能力を把握し、必要に応じて適切な教育や能力開発を行うことができます。個々の強みや弱みを理解して、組織全体の成長へとつなげることができます。人材配置の最適化ができれば、組織の効率化が図れます。
限界点:社員のスキルが限定的に評価されるため、全体のパフォーマンスや業務遂行能力の一部しか結果に反映されない可能性があります。
ストレスチェック
概要:ストレスチェックは、労働安全衛生法に基づき、社員が50人以上の事業場に年1回の実施が義務付けられている調査です。社員のストレス要因を特定し、心身の健康状態を維持するために行われます。
目的:社員が自分のストレス状況を認識し、適切にケアを行うことで、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的としています。また、職場全体でのストレス要因を把握し、組織としての対策を立てる指針とします。
効果:社員のストレスに対するリスクを特定し、早期に対策を講じることで、社員の心身の健康が守られ、生産性の向上にもつながります。
限界点:社員が本音で回答するとは限らず、正確なストレス状況が把握できない場合があります。また、年1回の調査では、長期的なストレス管理としては不十分であるため、定期的なフォローが必要です。
サーベイが注目される背景
サーベイが注目されている背景には、テレワークの普及によるマネジメント課題が大きく影響しています。テレワークの実施に伴い、上司と部下が直接コミュニケーションを取る機会が減り、管理者が社員のコンディションを把握することが難しくなっています。さらに、労働力人口の減少に伴う人材不足や、優秀な人材の離職も企業にとって大きな問題です。
このような状況に対応するためには、企業の現状や課題を明らかにし、解決に向けた取り組みを行うことが必要です。サーベイは、組織の全体像や実態を可視化し、改善への道筋を示すための手段として注目されています。
サーベイのメリットと限界点
社員の満足度向上が期待できる
サーベイを通じて社員が抱える課題を解決し、不安や不満を解消できれば、社員の満足度向上につながります。結果的に、モチベーションやエンゲージメント、業務パフォーマンスの向上も期待できるでしょう。しかし、サーベイの結果を反映するまでに時間がかかると、社員が不信感を抱く可能性があるため、迅速な対応が重要です。
顧客満足度向上にもつながる
社員のエンゲージメントが高まると、業務の質や製品・サービスの品質が向上し、結果的に顧客満足度の向上につながる可能性があります。ただし、サーベイで得られたデータが曖昧な場合や解釈が不十分な場合は、効果的な施策に結びつかないリスクもあります。
回答者の考えをデータ化できる
サーベイにより、回答者の考えをデータ化することができます。データ化することで、社員が抱えやすい不安や企業の課題を把握でき、具体的な対応策を検討しやすくなります。しかし、回答が率直でない場合、実態を正確に把握することが難しくなります。
今後の施策に活用できる
サーベイで取得したデータは、今後の施策を検討・実施する際の判断材料として活用できます。データに基づく施策は、経営層からの理解や支持を得やすくなります。ただし、データを適切に施策へ反映できなければ意味がなく、サーベイ結果を活かせるかどうかが鍵となります。
社内トラブルを予防できる
サーベイを活用して、社員が抱える問題や課題に早期に気づき、対策を講じることができれば、社内トラブルを予防することができます。特に、人間関係の悩みやハラスメントは企業の中では相談しづらく、放置すると重大なトラブルに発展するリスクがあります。社員が回答しにくい内容を含む場合は、正確な状況把握が難しくなるため、匿名性を確保し、社員が安心して本音を伝えられるよう配慮することが大切です。
サーベイそのものが抱える課題
サーベイは社員や組織の現状を把握し、課題解決に役立つ有効な手段ですが、設計や運用の段階でいくつかの注意すべき課題が存在します。サーベイを運用していく際は、これらの課題について考慮する必要があるでしょう。
心理的安全性の欠如
社員が心理的に安全でないと感じる環境では、本音を述べることへの不安が高まり、回答が表面的なものになりやすいです。匿名性の確保や、結果がどのように使用されるかを事前に明確に伝えることで、不安を軽減する工夫が求められます。
上司や組織への忖度
社員が上司や組織に忖度して回答する場合、正確なデータを収集するのが難しくなります。この問題を回避するため、サーベイの実施者が第三者機関である場合や、回答が完全に匿名化されていることを保証することが重要です。
回答率の課題
回答率が低いと、データの信頼性が損なわれます。回答しやすいシンプルな設問の設計や、参加への動機付けを行うことで、回答率を高める工夫が必要です。
複雑な組織文化や潜在的問題の見逃し
サーベイ結果は表面的なデータに留まり、組織文化の深層や潜在的な問題を見逃す可能性があります。そのため、設計段階で多角的なアプローチを取り入れ、必要に応じてフォローアップインタビューや、より詳細な調査を追加で実施することが求められるでしょう。
サーベイ運用の流れや手順
サーベイを効果的に運用するためには、データの取得だけを目的とせず、組織課題を特定し、具体的な改善策につなげていくことが大切です。
目的に合わせたサーベイを設計する
サーベイを実施する目的を明確にし、適切なデータを収集できるように設計することが重要です。何を測定し、何を解決したいのか、どのくらいの期間で実施するのかを事前に決め、適切なプランを立てることで、サーベイがやりっぱなしになることを防ぎます。
データの取り扱いを正しく決める
サーベイで収集したデータの使用目的や使用範囲、個人情報の取得有無、データの保存場所などをあらかじめ決め、社員にも周知しましょう。データの取り扱いに透明性を持たせることで、社員の信頼を得ることができ、サーベイの実施がスムーズになります。
実施目的をあらかじめ社員に伝える
サーベイを実施する前に、サーベイの目的や期待される効果、結果の活用方法などを丁寧に説明し、社員の理解を得ることが大切です。また、サーベイの回答操作など、不正がないよう、マネジメント層への注意喚起も行いましょう。
実施頻度・回答期間に配慮する
サーベイの実施には、対象者となる社員の協力が必要です。サーベイを頻繁に実施することは社員の負担となり、不満を招く可能性があるため、適切な頻度で行いましょう。余裕を持った回答期間を設けることも大切です。回答期限前にリマインダーを送信するなど、社員に配慮して回答を促進しましょう。
結果を社内全体に共有する
サーベイの結果を集計・分析した後、必ずフィードバックを行いましょう。結果の良し悪しに関わらず、ありのままを共有することが大切です。サーベイの結果が迅速に共有され、改善の道筋が示されることで、社員からの信頼が得られ、継続的なサーベイの実施が可能になります。
改善策を実行する
サーベイはデータを収集するだけでなく、結果に基づいた具体的な改善策を実行することが目的です。職場環境が改善されていると社員が実感できれば、モチベーションやエンゲージメントも高まります。サーベイ結果を反映したPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルをまわし、組織全体の課題解決と成長を目指しましょう。
サーベイの分析方法と活用
サーベイを実施した後、収集したデータの分析方法や活用方法に悩むこともあるでしょう。ここでは、サーベイのデータを分析・活用するための3つのステップについて説明します。
サーベイ結果を読み解く
サーベイ結果を読み解くことが、分析の最初のステップです。単に数値や意見を確認するだけでなく、そこからどのような仮説が立てられるのかを考えることが重要です。例えば、ある社員のエンゲージメントが著しく低下していた場合、その低下の背景にあるものが本質的な問題です。なぜエンゲージメントが低下したのか、原因や背景を探ることで、効果的な施策を検討するための手掛かりが見つかります。
分析結果をもとに施策を検討する
次のステップは、分析結果をもとに施策を検討することです。データから、課題に強く影響している要因が見つかれば、それに対して有効な施策を考えます。例えば、社員の健康状態が悪化している場合、「健康指導の実施」「一定期間の休養」「職場環境の見直し」といった対策が考えられるでしょう。その際、単に休養を与えるだけでなく、健康指導を組み合わせるなど、問題に対して最も効果的な施策を検討することが重要です。
調査結果を社員に必ずフィードバックする
最終ステップは、調査結果とそれに基づく改善策を社員にフィードバックすることです。課題によっては、すぐに実行できる改善策を打ち出すのが難しい場合もありますが、そのような場合でも、現時点での方針や意向を共有することが大切です。何のアクションもなければ、サーベイに協力した意味がないと社員が感じ、モチベーションが低下する可能性があります。フィードバックを行うことで社員の信頼を得やすくなり、今後のサーベイや施策への協力も得やすくなります。
組織改善に役立つメンタルへルスケア
サーベイを通じて社員が抱える課題を把握することは重要ですが、サーベイそのものにはいくつかの課題があります。また、サーベイ結果をもとにした適切な対応がなければ、真の改善にはつながりません。サーベイは社員の状況を知るための手段に過ぎず、その後の対応こそが、心身の健康やより良い職場環境を実現するために重要です。社員が抱える課題に対して直接サポートを行えるカウンセリングの導入は、組織改善において欠かせない要素と言えるでしょう。
社員がストレスや悩みを相談できる窓口には、社内設置と外部委託の2つの方法がありますが、プライバシー保護や専門的なサポートの面から、外部委託のほうが利用しやすいケースが多いです。外部のカウンセリングサービスであれば、社員が周囲に知られることなく相談でき、社内のリソースに頼ることなく、専門家の支援を受けられます。
「マイシェルパ」は、精神科専門医が直接運営するオンラインカウンセリングサービスです。臨床心理士や公認心理師といった専門資格を持つカウンセラーが在籍しています。匿名性が確保され、相談内容も原則非開示のため、社員は安心して悩みを相談することができます。
加えて、ストレスチェックやメンタルヘルス研修、スポット産業医などの企業向けサービスにも対応しており、メンタルヘルス不調の早期発見から復職後のフォローまで、メンタルヘルスに関するソリューションをワンストップで提供しています。社内担当者とも密に連携し、産業保健に精通したスタッフが担当者に定期的なフィードバックを行いながら、企業ごとの課題解決に協力して取り組みます。
組織改善のためには、サーベイの実施だけでなく、カウンセリングを通じて具体的なサポートを提供することが鍵となります。メンタルヘルスケア対策を強化し、社員が心身ともに健やかに働ける環境を整えましょう。詳細についてはこちらをご覧ください。
前田 わかな(臨床心理士・公認心理師)
臨床心理士・公認心理師。早稲田大学大学院を修了後、医療機関や産業保健分野で豊富な経験を積み、臨床の実践において専門性を磨いてきました。特に産業保健の現場において、働く世代のメンタルヘルスやストレスマネジメントに長く携わり、多様なニーズに応じた支援を行っています。